書籍をきっかけに金融機関との関係をつくる —『シンプルな会計』活用の実践—
2026.04.01 執筆者:奥村 龍晃
キャッシュフローコーチ日本キャッシュフローコーチ協会
実践者:稲葉 琢也(キャッシュフローコーチ養成塾大阪3期)(株)ビズサポート 代表取締役
金融機関に30年勤務後、中小企業再生支援協議会PM、
ベンチャーキャピタル社長を経て独立。
現在は資金繰りに困る企業の再生支援を専門とする。
インタビュアー:奥村 龍晃(日本キャッシュフローコーチ協会会員/キャッシュフローコーチ養成塾東京9期)
今回は、日本キャッシュフローコーチ協会推奨書籍『コンサルタントの父が大学生の娘に教える シンプルな会計』(和仁達也 著)(以下『シンプルな会計』)を、金融機関との関係づくりにどう活用してきたのかを伺うインタビューです。
「銀行にアプローチするのはハードルが高い」と感じる方は少なくありません。
一方で稲葉さんは身近にある接点と書籍を起点に、行員研修の受注から紹介につなげる流れをつくってきました。その考え方と具体的な進め方を対話形式でまとめます。
成果を出すのは発想と行動力
奥村: 稲葉さん、本日はよろしくお願いします。まず最初に、よく聞くのが「稲葉さんは元銀行員だから、行員向けの研修や銀行からの紹介を獲得できたんですよね?」という声なんですが、その点はどうお考えですか?
稲葉: 確かに私は銀行員歴が長いので、最初のドアノックがやりやすい面はあると思います。ただ、私がいつもお伝えしているのは入口は特別なコネでなくてもいい、ということです。皆さん、自分の口座の金融機関があるでしょう、というのが最初です。税理士さんなら顧問先、コンサルならクライアントの取引銀行についていけばいい。決算説明に行くときに「お手伝いしましょう」と同行して名刺交換すれば、知り合うきっかけはできます。
奥村: なるほど。まずは知り合うことから始まるんですね。
銀行員は「キャッシュフロー経営」を知っていても説明ができない
奥村: 銀行員の方はお金のプロですし、入門書である『シンプルな会計』を研修に使っても、ちゃんと刺さるんでしょうか?
稲葉: そこも誤解が多いところですね。金融機関だと「キャッシュフロー経営」という言葉自体は聞いて知っているんですよ。でも、中身を理解していて、社長に分かりやすく説明できる人はごく一部です。経営者と仲良くなりたい、アドバイスできるようになりたい、という志を持った行員さんは多い。だけど、社長と対話する共通言語がない。専門用語で話しても伝わりませんから。
奥村: そこで”共通言語”として本が機能する、と。
提案は「書籍+動画」でシンプルに
奥村: 実際に銀行へは、どう切り出していくんですか?
稲葉: 私はこういうお話しをします。「キャッシュフロー経営を広める活動をしています。御行でも”キャッシュフロー”という言葉はご存知だと思いますが、社長に直感的に伝えるのは難しくないですか。実はこの本を使うと図で伝えられるようになりますが、行員向け研修で使いませんか」と。そして、本を”見せる”のが効きます。表紙や帯の図をちらっと見せて、PLとBSの関係を図で捉える、という入口を共有するだけでも反応が変わります。
もうひとつは動画ですね。『シンプルな会計』は、まとめ買いすると出版記念セミナーの動画が付いてくることがあります。そういうものがあると、「本そのものの説明は著者に任せたほうが早い」場面も出てくる。私個人の説明力より、コンテンツの信頼性を前に出したほうが進みやすいことが多いです。
奥村: 「稲葉さんがすごい」ではなく、「コンテンツの力を借りる」イメージですね。
研修は”本に沿う”が基本。1回で終わらせない
奥村: 研修を受注できたとして、準備は大変じゃないですか?
稲葉: ゼロから資料を作り込む必要はあまりないです。基本は本に沿って進めればいい。テキストがある、というのは大きいですよ。ただ、1回で全部は使い切れないので、私は「2〜3回やらせてください」と言います。相手の層によっても使い分けますし、状況によっては”ブロックパズル”の要点だけを1回でやる、というケースもあります。
研修では、読むだけにしない工夫はします。本の中のクイズやワークを抜き出して、ペアで計算してもらったり、社長にどう説明するかロープレしたり。参加型にすると理解が深まりやすいです。
奥村: 「本がある=準備がしやすい」だけでなく、受講者側も復習しやすいですね。
ゴールは研修獲得ではなく「紹介につながる流れ」
奥村: 研修の後は、どう受注につながっていくんでしょうか?
稲葉: 研修のゴールは謝礼をいただくことではなく、「困ったときに相談できる専門家」として思い出してもらうことです。銀行員さんは日々、資金繰りに悩む社長に会っている。でも、行員さんが自分で全部を解決するのは難しい場面もある。そこで「この件なら、研修でやったあれで整理できそうだ」「自分では説明しきれないけど、あの先生なら」と思い出してもらえれば、紹介が生まれます。
実際、研修を受けた若手の行員さんから「担当先のお客様にこの話をしたいのでサポートしてもらえませんか」と個別に連絡をもらい、そこから契約に至ったケースもあります。
奥村: 研修が”入口”になって、関係づくりと紹介の流れができるわけですね。
最後に:「アウトプットが先」
奥村: 最後に、これから金融機関との関係づくりに取り組む方へ、ひと言いただけますか。
稲葉: 私がいつも言っているのは「アウトプットが先」です。完璧に分かってから動く、だと遅くなる。動画を先にざっと見て、全体像を掴んで、まず動く。銀行も企業内研修も基本は同じです。まずは自分(あるいはクライアント)の取引銀行に行って、話してみる。そこで本があると話の軸ができます。丸腰で行くわけではないので必要以上に怖がらなくていいと思います。
奥村: 今日はありがとうございました。
稲葉: こちらこそ、ありがとうございました。
【初めの一歩】書籍を使った銀行開拓
実行の優先
準備が整うのを待つより、まずアウトプットする。
1. 最初の接点づくり
1-1 ターゲット選定:まずは取引銀行という既存の接点から始める。
1-2 準備物:『シンプルな会計』書籍を一冊カバンに入れる。
1-3 切り口:若手行員には「社長にキャッシュフローを噛み砕いて伝えたい」というニーズに、支店長や本部には「部下教育を効率化したい」という課題に焦点を当てる。
1-4 提案の初動:大げさに売り込まず、書籍の表紙や帯の図を入口に「この図で社長に伝わります」と一言添えるだけでも次の会話が生まれる。
1-5 信頼性:提案時には個人の説明力ではなく本と動画というコンテンツの信頼性を前に出す。
2. 研修の実行と深化
2-1 研修内容:書籍に沿って2〜3回に分けて実施する。
2-2 実践的な工夫:クイズやロープレを取り入れ、知識を”現場で使える”形に落とし込む。
2-3 準備の効率化:日程を先に押さえ、研修の準備は書籍を活用して効率的に行う。
3. 紹介の循環づくり
3-1 研修後も状況を聞き取り、必要に応じて同行やフォローアップ研修を入れる。
3-2 信頼の構築: 継続的な関与とサポートにより、行員から「この案件、相談していいですか」と声がかかる関係性を育てる。
三方良しの実現
結果として、銀行・顧客・専門家の三方にとってメリットのある循環が回り始める。
構成・文/奥村 龍晃(日本キャッシュフローコーチ協会会員/キャッシュフローコーチ養成塾東京9期)










































