「コンサルティング成果事例」将来のワクワクするビジョンが見えないストレスを解消し、業績V字回復を支援
2018.08.18 執筆者:二木 宏造あり方・ビジョナリープランお金のブロックパズルキャッシュフローコーチキャッシュフロー経営ビジョン
1.事例の概要
鹿児島の有限会社S建設は、昭和52年設立。社長(56歳)は14年前に事業承継した二代目。
従業員5名。創業以来、公共工事主体でしたが、承継後は徐々に民間工事(介護リフォーム)へシフト。
一方、社長は8年前より、介護施設向けに毎年プロの音楽家を招聘し,「ボランティアコンサート」を無料開催する等、社会貢献活動を熱心に行っていました。相談に訪れた平成26年当時、業績は2期連続赤字と低迷し、ワクワクするビジョンや赤字脱却法が描けずにいたため、コンサルを開始。
進める過程で紆余曲折ありましたが、2つの難所を乗り越えた後は、初年度よりV字回復、5年間の数値計画を2年で達成しました。
(当時の相談風景)
社長「2期連続赤字に陥り、先行きも見通せず悩んでいます。どうしたら儲かるようになりますかね?」
私「その前に、確認したいことがあります。まずは、社長の経営に関するこだわりや、○年後にはこうなりたいというような“ワクワクする未来図”はありますか?一般的には経営理念やビジョンなどと言いますが」
社長「ビジネス書を読むと経営理念やビジョンは大事だと書かれていますが、実はよく理解していないです」
私「社長は冒頭、儲かる方法について質問されましたが、そもそも儲かって何を実現したいですか?」
社長「…(しばらく絶句)…儲かったことがないから、わかりません!」
といういきなり衝撃的な問答がありました。その後、詳しくヒアリングし、お困りごとを整理しました。
(社長のお困りごとTOP3)
② 会社全体のお金の流れが把握できず、投資基準がなく、経営判断する際の相談相手もいない。
③ 時間管理が不十分。薄利の仕事やクレームに追われ、利益を生み出す見積時間が確保できていない。
2.コンサルティング、3つポイント
(1)思考の言語化
お困りごと①のように、相談の冒頭から、社長は、「どうしたら儲かるようになりますかね?」と聞き、「儲かったら何を実現したいですか?」という私の質問に対して「儲かったことがないからわかりません!」と回答しています。
つまり、ドンブリ経営企業の思考パターン:①HAVE(結果=売上、利益をあげたい、儲かりたい)⇒②DO(戦略→計画→実施、つまり効果のありそうな方法を実行したい)で,最も大事な③BE(ありたい姿)が定まっていなかったのです。
コンサルティングでは,まず思考パターンを180度転換し,成功企業の思考パターン:①BE(ありたい姿)→②DO(戦略,計画,実行)→③HAVE(結果)の順で「経営理念」から言語化していきました。
当初、社長は経営理念に関して、非常に崇高で難しい言葉を考え過ぎ、また、経営に本当に役立つのか腑に落ちていませんでした。挙句の果てに、「自分はそもそも、経営理念という言葉が好きではない!」と言い出す始末。
(その当時のやりとり)
私「社長、難しく考えずどんな時仕事をしてよかった!と心底から思えるか、それだけ考えてみませんか?」
社長「それは……えーと、お客様が…喜んでくれる顔を見た時かな?」
私「なるほど。それでは安売り競争せず、適正価格でお客様の喜ぶ顔を見るためには、社長は何をすればいいですか?」
社長「適正価格に納得いただくため、常にお客様の喜ぶ顔をイメージして、お客様の視点に立って最善の行動すること…でしょうか、これなら自分も満足します」
私「社長は社会貢献活動でプロの音楽家を招聘し、ボランティアコンサートを開催していますが、これもやってよかった!と心底から思えることですか?」
社長「会社の業績はもちろんですが、やってよかった!と思えるのは、ボランティアコンサートで高齢者の方々が音楽を聴いて涙を流して喜んでくれた時ですね。そうでした、儲かってこれをやりたかったんです!」
私「では、それを言語化したらどうなりますか?」
社長「うーむ、『常に、お客様の喜ぶ顔をイメージして行動する』という感じでしょうか」
私「かなりいいですねえ、それを経営理念にしてはいかがですか?」
社長「えっ?そんな簡単なフレーズでもいいんですか?」
振り返れば簡単なフレーズですが、社長の真剣な気持ちや使命感を総動員し、経営理念として言語化できるまで、4ヶ月もの長期間、多大なエネルギーを要しました。(1つめの難所)。
ただし、これが決まった後は、ビジョン、経営戦略、経営計画(計数、行動)が、憑きモノが取れたごとくトントン拍子に決まっていきました。
(2)お金のブロックパズルを活用
お困りごと②、③については、まず、お金のブロックパズルを活用し、現状把握を行いました。(図表3)
具体的には、赤字の主な原因として、案件の見積時間が少なく、精度が低い結果,粗利は12.5%と、同業種・黒字企業平均値24%(TKC指標)を大きく下回る薄利の現状を、視覚的に表示しました。
次に、適正価格を算出する見積時間を確保することが、利益改善に直結することや、売上高を(客数×客単価×リピート率)に分解し、各々の項目の対策を立てる研修を実施しました。
参照:
(3)マーケティング
営業に関しては、社長ひとりで行っていたため、売上高アップ策には限界がありました。また戦略的経費である広告宣伝費はゼロだったので、マーケティングの「仕組み」で利益を生み出す戦略をアドバスしました。その「仕組み」とは、「集客→見込み客のフォロー→販売→顧客化」です。まず、この仕組みを動かすための原動力になる「集客のための投資」を実行しました。
具体的には、地元のエリアを定め、対象顧客を国勢調査データ等で絞り込み(高齢者世帯、―戸建て、築20年以上)、「リフォームに関するお客様のお困りごとを解決したい」というメッセージを込めた、手作り感満載のDMを発送し、多くの集客に結びつきました。一方、既存顧客に対しては、リフォームに使える補助金情報や社員の人柄が伝わる記事を盛り込んだニューズレターを3カ月に1回発行し、リピートや紹介へ繋がりました。
3.経営計画発表会のすすめ
私は常々、経営理念から経営計画まで作り上げた後、経営計画発表会を行うことを強く推奨しています。
それは経営計画発表という1つの行動が、角度の異なった3つ以上の目的を持ち、経営者の成長を加速させるからです。和仁先生語録では「1アクション3ゴール」と言われていますが、経営計画発表会はまさにこれに当てはまります。
本件では3ゴール以上の5ゴールを設定しました。具体的には次のとおりです。
② 社長は、経営計画を公の場で発表することで、退路を断ちきって実行する覚悟が決まる。
③ 社員は、改まった場所で適度な緊張感を持ち、社員自身も決意表明することでモチベーションが高まる。
④ 社員以外の利害関係者(株主、協力業者、金融機関等)へも発表することで支援が受けやすくなる。
⑤ 発表会後は、懇親会をセットし参加者のコミュニケーションが深まる。
社長は、当初「経営計画発表会なんて、とても無理!」と言っていましたが、経営計画発表会後は発表をやり切ったことで、相当自信となったようです。
4.毎月の実践支援
経営計画発表会で決意表明の1ヶ月後、初の進捗モニタリングを行いました。
私「社長、経営計画発表会、素晴らしかったですね。ところで1ヶ月の進捗状況を確認させてください」
社長「わかりました。うッ…あれ? 経営計画書はどこへ置いたかな?」
せっかく苦労して作り上げ、社員をはじめ利害関係者の前で決意表明したはずの経営計画書は、早くも1ヶ月後には「絵に描いた餅」になりかけていたのです。(2つめの難所)
そこで「人の成長」と「タイムマネジメント」を向上させる、PDCA実践ツール「明快Vノート」*を活用し、特に、同社の問題点であった見積予定時間を“見える化”しました。また、これをもとに毎月1回、クオリティタイム(緊急ではないが重要な、質の高い時間)を設定し、モニタリングを実施することで、行動の軌道修正ができました。
*「明快Vノート」~稲盛経営哲学に代表されるような経営者の哲学(=フィロソフィ、あり方)を起点に、②P.F.ドラッカー教授のタイムマネジメント、③コンサルティング現場で実証された独自ノウハウ 以上の3つの要素を取り入れ、中小企業経営者が真に取組みやすいよう、筆者が作成したツール。
5.まとめ
コンサルティング開始後、初年度より、売上高、利益ともV字回復し、5年間の数値計画は2年で達成しました。
そのため、昨年、計画を見直し、新たに「ワクワク3カ年計画」として実行中です。
数字以外の変化としては、まず、お金のブロックパズルを活用し、収益向上に関する共通認識が芽生えたこと。加えて、DM、ニューズレター等、マーケティングの実践で成果が上がったことにより、赤字で暗かった社内の雰囲気が一変したことです。
また、本業以外でも、ボランティアコンサートの規模を拡げ、子供から高齢者まで楽しめる企画を経営計画に盛り込む等、ワクワク感が加速しています。
今回の事例では「素直で一生懸命な経営者が、経営理念・ビジョンを言語化し、目標値から逆算して経営計画(計数・行動)を立て、経営計画発表会で覚悟を決め、PDCAを回せば、業績は激的に好転する」との教訓を得ました。今後もこの教訓を生かし、「経営者に真正面から向き合い、共に成長し、愉しみを分かち合う存在になる」ことを目指していきたいと思います。
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二木 宏造
経営者を「お金」、「人」、「時間」の悩みから解放し、経営哲学の実践とビジョンの実現に向け、徹底サポートする専門家。フィロソフィパートナー、鹿児島で唯一のキャッシュフローコーチ。企業の進化、地域の活性化、世直しがミッション。鹿児島銀行、九州経済研究所経営支援部長を経て独立。後継者や幹部育成、「人の成長」と「タイムマネジメント」を向上させる「明快Vノート」を活用したセミナー等に定評。