矯正歯科で引退後のシナリオの描き方。閉院か、譲渡か?そのやり方は?
2026.08.15 執筆者:和仁 達也
キャッシュフローコーチキャッシュフロー経営事業承継着眼点
一定の年齢を迎えると、経営者は事業承継を考え始めます。
とりわけ、歯科医院のように技術力を伴う業種は、
「経営者」の役割と「プレイヤー(ドクター)」の役割を
わけて考える必要がありそうです。
と言うのも、「経営は人に任せたいが、プレイヤーとしては身体が動く限り、
長くやりたい」という人もいるからです。今回はそんな葛藤と選択肢の
考え方を、歯科医院の事例でお届けします。
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加藤院長は、現在67歳の矯正歯科医。
確かな技術があり、患者に最適な診療を提供したいとのこだわりが強く、
患者やスタッフからの信頼も厚い。
スタッフは6人、チェアは3台で売上は8000万円、利益は2000万円。
堅実な経営を心がけてきたことで、借金は無く、収支構造や財務体質は極めて良い。
今だけを見れば、何も問題はないのだが、近い将来の引退後のシナリオを描けずにいた。
加藤院長には子供はおらず、副医院長も不在のため、
「院長の引退=医院の終了」となるのが気がかりだった。
その最大の理由が、今も通い続けている35人の患者の存在だ。
もし閉院するなら、他の矯正歯科医院に紹介してフォローして
もらう必要があるが、その情報がスタッフに漏れたら問題だ。
閉院することが知られたら、スタッフは退職してしまうだろう。
そんな不安と葛藤を抱えていた。
そこで、知人の紹介で知ったキャッシュフローコーチの和仁との
ミーティングで、この話題を取り上げることにした。
事情を一通り確認すると、キャッシュフローコーチは話し始めた。
「なるほど、わかりました。やるべきことは、加藤院長が
”大切にしたいこと”を言語化し、”考え得る選択肢”を挙げた上で、
納得の最善策を決めることですね。
加藤院長が大切にしたいと考えておられることは、どんなことがありますか?」
加藤院長は、日頃から考えていることを口にした。
大切にしたいことは3つ。
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1.いま通ってくれている患者の治療を、責任を持って
最後まで見届けたい(最長3年かかる)
2.スタッフには最後まで医院を辞めずに働き続けてもらいたい。
(今からの中途採用は厳しいと感じている)
3.もし、他の医院に譲渡するなら、高度な技術で患者の治療を
してあげてほしい(患者を守ってあげたい)
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加藤院長の言葉をホワイトボードに書き出しながら、
キャッシュフローコーチは問いかけた。
「なるほど、これらを踏まえた、加藤院長の選択肢は、
どんなものが考えられるでしょうか?」
加藤院長は答えた。
「今、考えているのは、この2つかな、と」
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1.信頼できる他の医院に患者を紹介して、引き継ぎを完了した上
で閉院する。スタッフがそれを受け入れて協力してくれることが必要。
2.理念の合う医院に事業譲渡して、患者の治療を任せる。
その場合、スタッフの雇用がどうなるかは要相談。
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それを聞いたキャッシュフローコーチは、発想を広げる問いかけをした。
「もし、スタッフの雇用も条件に入れることができたなら、
それを求めますか?」
加藤院長は、ハッとした表情で答えた。
「それは、そうしてもらえるならありがたいです。
もちろん、スタッフの意向にもよりますが、
『今まで診てきた患者さんを見届けたい』
『この仲間と一緒に働き続けたい』
という者もいると思うんです」
キャッシュフローコーチはうなずくと、さらに話を加えた。
「さらに言えば、医院を事業譲渡した上で、加藤院長を
勤務医として雇い続けることは、どう思いますか?」
加藤院長はしばらくの沈黙の後に答えた。
「・・・その発想はありませんでした。医院を譲るなら、
わたしがいたら、後任の院長がやりにくかったりして、
邪魔ではないですか?」
「そこは相手次第ですね。確かに加藤院長の懸念も、
もっともな話です。ただ、仮に理念が共有できて同じ価値観で
診療できるのであれば、後任の医院長としても加藤院長の存在は
心強いのではないですか?」
確かに、患者さんや働き続けるスタッフにとっては、
院長が勤務医として一緒に働き続けることは心強く安心感がありそうだ。
それに、後任の医院長にとっても、医院を運営する上で
負担軽減の可能性がある。あとは、「価値観の共有」や
「役割と責任の明確化」などいくつかの条件をクリアできれば、
決して不可能な話ではない気がする。
そこで、第3、第4の選択肢を追加した。
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3.理念の合う医院に事業譲渡した上で、今のスタッフの雇用を
守ってもらい、患者の治療を任せる
4.理念の合う医院に事業譲渡した上で、今のスタッフの雇用を
守ってもらい、加藤院長はそこで勤務医として
今の患者の治療が終わるまで働き続ける
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ここまで考えを整理したところで、加藤院長は腑に落ちた表情で言葉を発した。
「いま、いろいろ話をしながら、自分が無意識のうちに
可能性に蓋をして発想していたことに気がつきました。
『3や4のようなことはあるわけがない』と思い込んでいましたが、
それも相手次第ですよね。まずは、自分の望みを素直に書き出して、
選択肢を広くとることが大切なんだと思います」
「そうですね。選択肢が明確になれば、どこに相談すれば
良いかも決まってきます。この加藤院長の考え方をまとめて、
次の展開を考えていきましょう」
ここ数年の間、ずっと堂々巡りしていた悩みが、
一歩前に転がり始めた瞬間だった。
【今回のレッスン】
◎意思決定に迷ったときは、
まず「①大切にしたいこと」と「②考えうるすべての選択肢」を書き出すこと。
◎特に、「②考えうるすべての選択肢」については、
具体策はひとまず横において発想することで、思いがけない道筋が見つかることがある。
入口の時点で可能性を狭めずに、あらゆる可能性を模索したい。











































