スタッフが医院に愛着を感じ、気持ちよく働ける環境をつくる!有給消化100%を実現するには?
2020.05.15 執筆者:和仁 達也キャッシュフロー経営人件費歯科医院求人採用着眼点資金繰り
人手不足が叫ばれ、どの業界でも採用が難しくなっています。
歯科業界も例外ではなく、人材確保や、退職者をなくす為の
方策が課題にもなっています。
採用を頑張るよりも、まずは、スタッフに気持ちよく
働いてもらい、医院に愛着を感じてもらうことが重要です。
そこで、この記事では、「スタッフが医院に愛着を感じ
、気持ちよく働ける環境をつくる!
有給消化100%を実現する」為にどうすべきか?
を解説しています。
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ホワイト歯科では、開業して5年目になり、
チェア3台、ドクター1人に衛生士スタッフ3人、
受付1人の体制で軌道に乗りつつあった。
その一方で、スタッフの求人が課題となっていた。
というのも、予約制であるにも関わらず、
待ち時間が30分を超える日もあり、
患者さんからのクレームが目立ち始めているからだ。
しかし、1つ悩みは、今の勤務条件では、
理想的なスタッフが面接に来てくれないことだった。
その理由を親しいドクター仲間に相談してみると、
「それは、待遇に改善の余地があるんじゃないか」
と口をそろえて言われた。
加藤院長は、田舎のこのエリアでは、衛生士の給料、
月額21~22万円というのは決して低過ぎるわけではない、
と思っていた。
しかし、給料の額そのものよりも、
やはり少数精鋭方式であるが故の忙しさがネックのようだ。
有給も実質的にとらせてあげられていない。
夜も診療がずれ込んで、午後6時には終了のはずが、
後片付けをして医院を出られるのは午後8時、
なんていうことも珍しくない毎日。
「開業して今までは、なんとか軌道に乗せなくては、
とガムシャラにやってきたが、そろそろ優秀なスタッフにとって
魅力的な医院づくりに本気で着手するときが来たようだな・・・」
そこで、加藤院長は今のスタッフと個別にランチ面談をし、
待遇面でどんなことを希望するか、率直な意見を聞いてみた。
幸い、スタッフ同士の仲はよく、院内の雰囲気については
問題はそれほどないと思うが、勤務条件については、
いろいろリクエストが上がりそうだ。
給料を上げて欲しいのか、残業を減らして欲しいのか、
それとも・・・?
4人それぞれに話を聞いてみたところ、
意外にも一番多いリクエストは、
「有給を堂々ととりたい」というものだった。
もちろん、一定数の有給付与は法律で義務付けられているし、
院長もそれを否定したことはない。
しかし、忙しい日々の状況を目の当たりにすると、
スタッフも「自分が休みをとったら、他のスタッフの負担が増えて、
申し訳がない気がする。だから、結局は有給は取りたくても、
罪悪感にかられて、とれないでいる」というのだ。
スタッフのリクエストがハッキリしたところで、
加藤院長は翌日の経営キャッシュフローコーチとの
ミーティングで相談をすることにした。
翌日の経営キャッシュフローコーチとのミーティングで
一通りの事情を聞くと、キャッシュフローコーチは
いくつかの質問を院長に投げかけた。
「よくわかりました。では、順番に考えていきましょうね。
まず、『今のスタッフが有給を100%消化したときに、
医院の収益にどれだけの影響を与えるのか?』
を考えてみましょう。
そのため、最初の質問は
『今のスタッフが有給を100%消化したら、
何人工(にんく)の空きになりますか?』です。
あ、ちなみに”人工”とは、専門職1人が1日労働する仕事量を
”1人工(いちにんく)”といいます。
たとえば、1人が年に10日有給を消化するなら、10人工ですね」
加藤院長は電卓をたたいて、答えた。
「今は入社して間もないスタッフとベテランとがいるので、
使える有給の日数がバラバラですが、トータルで年間36人工です」
キャッシュフローコーチはうなずくと、話を進めた。
「なるほど、ということは1カ月に3人工ですね。
衛生士1人が1日に診るメンテナンスの患者数は、
たしか15人でしたよね?
すると、15人×3人工=45人で、
1カ月に診療できる患者数の違いは45人となります」
院長が一緒にメモをしながら話を聞いているのを確認すると、
キャッシュフローコーチは続けた。
「で、1人当たりの患者単価が@5千円だとして、
@5千円×45人=22.5万円。つまり、単純計算で、
全員が有給100%消化して、その分の受入れ態勢に
1カ月あたり3人工の欠員ができると、
22.5万円の売上ダウンになるリスクがあるってことですね」
それを聞いて、加藤院長は青ざめた表情で声を上げた。
「それは困ります!1年で270万円も売上がダウンするんですか!
それでは、借入の返済もできなくなります。
それに第一、今来てくれている患者さんの予約が入り切らなくなって、
よその医院に流れて、患者離れを引き起こしてしまう。
やっぱり有給消化100%なんて、夢物語なんですかね・・・」
キャッシュフローコーチはにこやかに答えた。
「いえいえ、院長、安心してください。いくつも手立てはありますよ。
まず第一に、今のシミューレーションは、
今のスタッフ体制で単純に休みを増やした場合の話であって、
スタッフ数が減るなら、その分を補えばいいのです。
とは言え、有給消化のためだけに、正社員1人を雇うとなると、
それは人件費負担が過大になってしまいますね。
そこで、月3~4日、すなわち週1日だけ働いてもらえる
パートスタッフを雇う、という手があります。
つまり、月に3人工の空きができるところをフォローしてもらうわけです。
もしそれができたら、今の社員スタッフも罪悪感を持たずに
安心して休みをとれるでしょう。
ある医院では、過去に出産退職したスタッフに声をかけたところ、
週1日ならむしろ喜んで働きたい、と言ってくれた元スタッフもいました。
それでそのパートスタッフの時給が仮に1千円だとしたら、
1日で8千円、月に2.4万円~3.2万円程度の人件費アップです。
この場合、今の売上を維持する前提なので、
実質的な利益減はそのパートスタッフの給料分だけです。
また、別の選択肢としては、人を補充せずに、
今の正社員のスピードをアップする手もあります。
衛生士3人が1日に計45人の患者さんを診るとして、
1カ月だと45人×20日で900人の患者さんを診ているとしましょう。
このとき、有給消化100%だと、
月45人のマイナスになるということでしたから、
これは全体の5%にあたりますね。
つまり、今より5%のスピードアップができれば、
理論上は今の人数で診療できることになります。
1人あたり30分かかる診療を28分でやる、という感じです。
あるいは、その両方の掛け合わせで、
『パートスタッフの応援態勢をとりつけつつ、
正社員のスピードアップを実現させることで、
有給消化100%を実現しながら、医院の利益をアップする』
ということだって可能かもしれません。どう思いますか?」
具体的な数字で考えてみれば、決して不可能なことではないように感じる。
院長にとって、目からウロコだった。
もっと正確な数字でシミュレーションする必要はあるが、
十分に実現可能そうだ。
手ごたえを感じた加藤院長は、顔を上げ、ニッコリ笑顔を見せた。
【今回のレッスン】
◎ 「有給消化100%」実現に向けて、大前提の質問。
それは、「今のスタッフが有給を100%消化したときに、
医院の収益にどれだけの影響を与えるのか?」
◎ その上で次の3つを考えよう。
①今のスタッフが有給を100%消化したら、
何人工(にんく)の空きになるか?
②それは1カ月に診られる患者数が何人減ることを意味し、
1カ月の売上がいくら減ることになるか?
③その売上を減らさず維持するために、
スタッフ体制を補う方法として、何ができるか?
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