社員を巻き込みビジョンを実現する キャッシュフロー経営って?
ドンブリ経営な会社で聞こえる会話 5つの事例
2018.08.20 執筆者:和仁 達也お金のブロックパズルキャッシュフロー経営ドンブリ経営
お金のことは適度にルーズなほうがいいのか?
自覚しているかどうかは別として、日本の中小企業の多くは、ドンブリ経営であるといっていいでしょう。
そして、
「ドンブリにはドンブリのよさがある」
「お金のことは、経験と勘でなんとなく理解しているから大丈夫」
こんなふうに思っている社長は、決して少なくありません。
これまでドンブリ経営でもやってこれたという事実があるわけですし、誰しも、自分の好きな商売のことだけ考えて、小難しいことはできれば考えずに過ごしたいと思うのは、ごく当然のことではないでしょうか。
それに、
「お金の管理をきっちりやりすぎてしまうと、自分が自由に使えるお金がなくなってしまうのでよくない。だから、お金のことは適度にルーズなほうがいい」
と考えている社長も多いはずです。
でもそれは、あくまでも「ドンブリのままでもお金がうまく回っていること」が大前提である、ということを忘れてはいけません。
みなさんは、日本で毎日どれくらいの会社が倒産しているかご存知でしょうか?
2017年度は、8,376件の企業倒産(帝国データバンク調べ)があり、1日あたり23件、つまり、今こうやって1時間経つごとに約1件のペースで、日本のどこかでバタバタと倒産しているのです。
これほど多くの会社が倒産している最大の理由は、一体何だと思いますか?
お金が回らなくなれば、当然、会社は倒産します。
たとえば、売上よりも商品の仕入れのほうが大きければ、いつかは資金ショートします。儲かっていないのに高額なボーナスを支払い続けたり、必要と信じて買った設備が稼動せずに遊んでいたり、あるいは返せる目処を立てずに莫大な借金をしても、やはりいずれは資金ショートに向かっていきます。
こう言われると、「そんなことをしたら、倒産して当然じゃないか」と思う人が大半のはずです。でも、お金の入りと出のバランスを考えずに、ドンブリ経営を続けていると、気づかないうちに、こうした「倒産して当然」のことをやってしまうのです。
たとえば、安易に値下げをしたり、そもそも安すぎる値付けをしていたとしたら、儲かるはずのものまで儲からなくなります。逆に、ある考え方を知っていれば、儲け(=利益)を2倍にすることはそれほど難しいことではないのです。
これは、ドンブリ経営をしている限り、一生気づかないことかも知れません。
まずは次のような会話をしていたら要注意です。あなたは身に覚えはありませんか?
ドンブリな会社で飛び交う会話
今からご紹介するのは、よく見られるドンブリ会社の例です。そこで、どんな会話が交わされているか、一緒に見ていきましょう。
みなさんは同じような会話をしていないでしょうか?
事例1:人の採用
スタッフ「社長、鈴木さんが今月で退職するので、新しく1人採用してください。」
社長「わかった。そうしよう。」
「これは私の会社でもよくある会話です。それは当然でしょう。今までいたスタッフがいなくなれば、残った社員は、その分忙しくなりますから」
そう、よく聞く会話です。そこに疑問を持たずに社長が「うん、わかった。採用しよう」と言えば、人が補充されて解決するように思えるかもしれません。でも、よく考えてみてください。本当に今、人員を補充しなければならないのでしょうか?
「え、どういう意味ですか?」
当然、人を採用すれば人件費がかかります。もし安易に人を採用して、その人件費に見合った売上を上げることができなければ、会社は逆に損することになりますよ。売上目標を達成する上で、本当に新しいスタッフが必要なのでしょうか?ひょっとしたら、すでにいるスタッフで補えるのではないのでしょうか?
新人は入社してすぐに戦力になるわけではありませんから、当面は教育期間が必要です。そこに労力を割くことを考えたら、一時的に忙しくはなるけど、今の訓練されたメンバーが少数精鋭で頑張ったほうが、かえって効率がいい場合もあるのです。
10人で達成しようとしていた目標を9人で実現できたなら、欠員1人分の人件費は皆で分配しても会社としては損はないでしょう。
「確かに。そういう条件なら、皆やる気を出して頑張ると思います」
だったら、安易に新しい人を採用せずに、今いる人員をもっと活用する方法を考えてみましょう。これは後でもお話ししますが、入りと出のバランスが重要なのです。会社にとっての「入り」が同じなら、「出」である人件費は、安い給料で大勢を雇うこともできるし、能力の高い人材を高い給料で少人数雇うこともできます。
どのような人材をどれだけ雇うかを考えるのは社長の仕事のひとつです。
また、人員体制をどうするかという話は、目先の数字の話だけにとどまりません。将来的に会社をどのようにしていきたいのか、というビジョンとも関連します。
ですから、人が出入りするときは今後の会社の方向性について立ち止まって考える機会ととらえてはいかがでしょうか。
事例2:広告費
スタッフ「社長、今度の雑誌広告の枠ですが、20万円と30万円の2つあります。どっちにします?」
社長「目立つほうで行こう!30万円のほうが大きいんだろ?30万円で行こう」
根拠もなく感覚的に判断していませんか?
「周りの会社も広告を出しているから、ウチもやろう」とか、「このキャンペーンは去年もやったから今年もやろう」と感覚で決める会社は多いです。それこそ、「いくら投資したら、いくら回収できるか」を考えない販売促進策は、世の中にたくさんあります。
効果がないのに何十万、何百万円ものムダ金を使ってはいけません。
ところがドンブリ経営の社長は投資効果を考えていません。仮に社長がそのことをわかっていても、実際に広告代理店に発注する社員がそれを考えていなければ、お金をドブに捨てているのと同じです。それぞれの効果の予測ぐらいはスタッフに考えさせましょう。
たとえば10万円の広告費を使うのなら、最低でも10万円以上、粗利をアップさせないとかえって利益を圧迫します。
仮に粗利率50%、平均商品単価1000円の商品を扱っていたとしたら、最低でもその広告宣伝によって200個以上、販売数を上乗せできる見通しが必要です。お金を使うときには、必ず投資効果を考えるクセをつけたいものです。
事例3:節税対策
顧問 税理士「社長、大変です。今期は利益がたくさん出そうです。節税のために、何か買われたらどうですか?」
社長「そうだな、前から欲しかったベンツを買おうかな」
「・・・このセリフ、私の会社の調子がよかった時期に、よく言われましたよ」
それにしてもこのセリフ、不思議だと思いませんか?
会社の利益がたくさん出ることはありがたいことのはずなのに、税理士は「大変です」と言って、社長に「節税のために何か買われたらいかがですか?」という提案をしているのです。これがどういうことか、わかりますか?
この税理士にとっては、税金がたくさん発生することは「大変なこと」になるのです。なぜならこの税理士は、社長が自分に期待していることは「税金を少なくすること」だと信じているからです。これは、一般的な税理士の考え方だと思います。でも、会社を経営しているのに、利益がたくさん出ることが「大変なこと」だというのは、何かおかしいと思いませんか?
「利益がたくさん発生して、税金でごっそり持っていかれるぐらいなら、欲しいものを買ってしまったほうが得だと私も思ったのですが、違いますか?」
税金でごっそり持っていかれる、と言いましたが、どれぐらい持っていかれるのですか?
「利益の半分ぐらいは税金で出て行くと聞きました」
確かにそうです。でも半分は会社に残るのですよ!
利益が出る前に何か買っておけば、それが経費として計上されて利益が圧縮されますから、その結果、税金が少なくなります。これは、もっともらしい論理ですよね。
しかし、そこで買い物をすれば、当然ながら手持ちの現金自体も減ってしまいます。現金がある場合ならまだしも、借金をして買い物する場合すらあるのです。
「あ、そうか。ということは、現金を貯めるには税金は払わないといけないのですか?」
そうです。それなのに、いざ利益が出て、納税予定額を目の前にしながら、税理士に「何か買われてはどうですか?」と言われると、社長はつい借金をして、買う必要がないベンツを買ってしまいます。あるいは本当は買わなくてよかったはずのクルーザーを買ってしまうのです。資金繰りが苦しかったりするのに!
キャッシュに余裕がある人以外は、こんな節税対策をやってはいけません。間違った節税対策は会社を圧迫するだけ。目先だけにとらわれず、3年後、5年後、10年後というスパンでも考えてみることが大切です。
事例4:税理士に丸投げ
次は、あるセミナーでの私と受講者の会話です。実はこう公言している社長は多くいます。
社長「私はドンブリ経営じゃありません」
和仁「そうですか。やけに自信たっぷりですね」
社長「ウチはちゃんと税理士に見てもらっているから、大丈夫なんです」
私はこの最後のひと言が気になります。
「税理士に見てもらっているから、大丈夫なんです」
いったい、何を見てもらっているのでしょうか?
「私の会社も同じですが、自社の数字を見てもらっているのでは?」
では、なぜ税理士に自社の数字を見てもらっていると、大丈夫なんでしょうか?
「それは、問題があったらアドバイスをしてくれるからだと思います」
確かにアドバイスはしてくれるでしょう。ただ、それは「節税上のアドバイス」なのか、「経営の舵取りをする上でのアドバイス」なのか、どちらでしょうか?
もちろん、経営アドバイスも含めて対応できる優秀な税理士もいますから、それならOKでしょう。しかし、一般的には税理士の仕事って、何か知っていますか?
「いえ、よくわかりません……」
税理士の主たる仕事は、税務申告書類を正確に作成し、節税対策をアドバイスすることです。数字を見ているとはいえ、そういう観点で見ていたとしたら、経営のアドバイスはできるのでしょうか?
前述したように、税務上のアドバイスは、かえって会社の経営を圧迫することもあるので注意が必要なんです。
「そうか、いくら数字を見ているとはいえ、経営者と同じ見方をしているわけではないのですね。たしかに私の顧問税理士は、利益とか税金の話は生き生きとしているのに、経営の話になるととたんに無口になります。どうも認識のズレがありますね」
そのあたりは、経営のアドバイスをしてくれるかどうか、ちゃんと顧問税理士に確認したほうがよいでしょう。
繰り返しますが、今は向上心の高い優秀な税理士がたくさんいますから、ビジネス・パートナーとして一緒に考えてくれる税理士を見つけ、何を期待しているかを自分の言葉で伝えることが、ドンブリ経営から脱出する上で有効なコツです。
また、いくら優秀な税理士がいるとしても、最終意思決定者はあくまで社長です。
「税理士が見てくれているから大丈夫」という依存的な発想は禁物です。もし失敗しても、誰も責任はとってくれませんから、気をつけたいことです。
事例5:長時間労働
社長「今日は忙しかったなあ。13時間は働いたぞ。もう疲れた。寝よう!」
お金にドンブリな社長は、時間に対してもドンブリなことが多いようです。
たとえば一日頑張って働いて、自宅に帰って来ました。
「今日は忙しかった。13時間も働いたぞ」と言って寝ます。でも、色々、仕事している割には、儲けにつながる仕事は1時間程度しかしていなかったりするのです。
「そんなまさか! 私はそんなことはないと思いますよ」
そうですか。たとえばこんなことはありませんか?
● 仕事中に、飛び込みで来た営業マンの相手をして1時間ぐらい経ってしまった
● 机の上に積まれたDMをチェックしていたら、つい読みふけっていた
● メルマガを少し読んでいたら、そのままリンクされたHPにネットサーフィンをして、気がつくと1~2時間があっという間に過ぎてしまった
● 事前の準備が不十分だったために、やり直しの仕事が発生して、数時間つぶれた。
「ああ、言われてみれば私の日常風景そのままです」
そういうことで、忙しかった割に儲けにつながっていない、ということがよくあります。忙しいばかりで儲からない原因というのは、こんなところにもあるのです。
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以上、ドンブリ経営な会社でよく見られる会話を5つ、ご紹介しました。
「自社に当てはまるものはないか?」、またコンサルタントであれば
「クライアント先で心当たりはないか?」
一度、思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。