大きすぎる目標を設定して動き出せない時には目標を細分化して、日常になじませることが必要
2018.10.18 執筆者:和仁 達也キャッシュフロー経営伝え方歯科医院目標設定
大きな目標を設定したけど動けない。
何をすればいいのだろうと足踏みしてしまう。
でも、目標や夢は大きい方がいい!と言われたから目標は大きく持った方がいいのではないか?
確かに目標は多い聞く掲げた方がいいかもしれません。
しかし、大きすぎる目標は、達成するまでの過程をイメージできずに「何から始めればいいのかわからない」ということになり、結局はやる気がなくなって行動まで落とし込めないといった結果になってしまうということもあります。
例えば、年収が500万のサラリーマンが、起業独立し、いきなり年収1億を目指す!といった場合に何をすればいいかわからないですよね?
一発逆転を狙ってしまうとギャンブルにしかならないですし、500万から1億は大きな開きもありイメージはしにくいと思います。
歯科医院の経営でも、同じように大きすぎる目標は、逆に成長への足枷になってしまう場合があります。
様々な経営努力により、以前に比べれば多くの患者さんが来院するようになった。しかしその一方で、チェアを増設し、スタッフを増員した割には、患者数が増えていないことが加藤院長には気にかかっていた。
今日は月1回の経営キャッシュフローコーチの和仁との相談日。院長はそのことを投げかけてみた。
「毎月のミーティングで、売上目標は伝えているし、チェアの増設とスタッフの増員によって、以前の1割増しの患者さんを診ないといけないことは伝えてあります。それでも、衛生士の手は遅いし、受付のアポの入れ方にもムダが多い。突然のキャンセルに対してもフォローしている様子がない。目先の仕事で精いっぱい、というのはわかるんですが、彼女たちの頭の中に、経営者的な目線がまったくないのは、どうしたものでしょうか?」
院長としても、あまり「売上、売上」とくどく言うと「院長は金儲けばかりか」とスタッフの反感を買いそうで、気が引けていた。しかし、放っておいてスタッフが自発的に売上目標を意識するようになるとも思えない。売上目標の未達が続けば、スタッフへのボーナスも払えなくなる。
かつて、キャッシュフローコーチに講師を依頼して、スタッフを集めて「お金の勉強会」をおこなった。「売上がなぜ必要か?」については、「良い医療を提供し続けるため」「スタッフの雇用を守るため」ということが腑に落ち、そのときはスタッフも皆、モチベーションがアップした。
しかし数か月が経ち、日常の忙しさにかまけて、元に戻りつつあった。
キャッシュフローコーチは事情を把握すると、院長に次のように問いかけた。
「院長、いま医院の1カ月の売上目標は500万円ですよね?これは、1日に何人の患者さんを診ることで達成できるでしょうか?」
加藤院長は、電卓をたたき始めた。
「今、ウチは保険診療の患者さんが中心で、1人あたりの平均患者単価が、だいたい5千円だったかな。ということは、月の売上目標を5千円で割ると、月に1000人。さらに、週休2日なので、月に22日診療しているから、1日46人という感じでしょうか」
■月の売上目標5,000千円÷平均患者単価5千円=月の患者数目標1,000人
■1,000人÷月の診療日数22日=1日の患者数目標46人
「ということは、チェアが4台あるから、1台あたり11~12人を8時間の診療時間内で診ることができれば、1カ月の売上目標を達成できる計算になりますね。現実には、どのくらいのペースですか?」
「う~ん、実際には1日40人診れたらいいほうで、大抵は30人台で止まっています。患者さんはおかげさまでたくさん来ているんですが、スタッフの段取りや手際が追い付いていない感じです。決してサボッているわけではないと思うんですが、、、。医療人にありがちですが、丁寧さにばかり気がいって、数に対して意識がいっていない感じなんです。でも、数を追いすぎて、医療の質が下がっては、元も子もありませんし、難しいところです」
キャッシュフローコーチは院長の話に共感しながらも、1つ提案をなげかけた。
「院長、今の状態というのは、スタッフは月にいくらの売上を目指すべきかは知っていますが、1日に何人、1時間に何人、というところまで落とし込まれていませんよね。そこがポイントではないでしょうか?
つまり、『1カ月終わってから売上がどうだったかを初めて知る』ようでは遅いので、常に“今のペースが目標達成に沿っているか”、に気を向けてもらいたいわけです。
そこで、ペース配分を常にスタッフが気にかけられるよう、こんなしくみを取り入れてはどうでしょうか?」
それは名付けて「今日の患者数の計画-実績スコア」。
ホワイトボードを用意して、縦軸と横軸をとる。横軸には、1日の患者数の「計画」と「実績」、「過不足」を記入。縦軸には、1時間刻みで枠をとる。そして、「計画」の欄に、1時間ごとに何人の患者さんを診る必要があるかを書き込み、診療終了時には1日の目標数である46人となるようにする。
そして、これをスタッフが見られる場所において、受付スタッフが毎時間ごとに、右の「実績」欄に、実際に診療した患者数を書きいれていく。そして、計画との過不足数も。
たとえばこの場合、午前の診療が終わった時点で、1人分少ないことがわかる。「その分を午後から挽回しなくては」という方向に自然と意識が向きやすくなる。
衛生士の仕事が丁寧で正確な上に早くなれば、1日に診れる患者数のキャパシティは増える。
すると、受付も安心して今よりもタイトにアポを入れられるようになる。
「これは、売上じゃなく、患者数のほうがいいんでしょうか?」
院長の質問に、キャッシュフローコーチは補足した。
「そうです。このやり方のポイントは、売上ではなく、スタッフにとって身近に感じる“患者数”だけを表示していることです。飲食店のような商売だと、ここに売上を記載してスタッフの志気を高める方法もありますが、医療従事者である歯科医院の場合、それは馴染みません。むしろ、『当院でどれだけ多くの患者さんを助けてあげたか、より良い医療サービスを提供できたか?』という方向に目線を向けてもらう意味でも、患者数にフォーカスしたほうがよいでしょう。平均患者単価がわかっていれば、掛け算すれば、ちゃんと売上目標につながるのですから」
「そうか、たしかにこれならマラソンの走行距離数の目印みたいに、今どこまで到達したかがわかって、自分の判断でペース配分をコントロールできますね。私も口やかましく言わなくていいし。受付も、目標人数のアポを取るように意識できそうだ。さっそくやってみます」
最後にキャッシュフローコーチはひと言、補足した。
「ただし、くれぐれも患者さんの目には触れないところに置いておきましょう。余計な詮索が働くし、人によっては不快な思いを抱くこともありますから」
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【今回のレッスン】
◎大きな目標は細分化して、スタッフが直感的にわかるレベルの身近な数字におとしこむ。
◎「どのくらいのペースで診療をおこえば、目標にたどり着くか」のペースメーカーを用意する。