社長と社員の立場の違いからくる危機感のズレ ~自分事として捉えれば、アイデアと実践が走り出す~
2018.10.29 執筆者:生岡 直人あり方・ビジョナリープランお金のブロックパズルキャッシュフローコーチキャッシュフロー経営ビジョン
社長と社員の立場の違いが明確になっていますか?
「みんながんばってるんやけど、もう一皮むけてほしいんよ!」
大阪市内で7店舗の飲食店を経営されているA社長は、社員の皆さんへ抱いている本心を、私に伝えて頂きました。
この会社は、年々業績を上げ、店舗数も増やしており、順調な経営をされています。でもそんな中、A社長はある危機感を抱いていたのです。
その危機感とは、「まだまだ社員の採算意識が低い。このままじゃいけない。」というものでした。
これまでこの会社は、お客様受けする店舗のコンセプトや接客に力を入れ、イケイケドンドンで、売上を上げ、店舗を増やしてきました。だからこそ、これからはより一層、社員の皆さんと力を合わせて経営をしていく必要があります。
それにも関わらず、社員の皆さんから
「ナゼこれ以上売上を上げないといけないか」「ナゼこれ以上経費を抑えないといけないか」
という不満が見え隠れしたり
「どうすれば売上が上がるか」「どうすれば経費を抑えることができるか」
という積極的な意見や提案も乏しい、というのがA社長のお悩みでした。
このA社長のお悩み、まさに社長という立場だからこそ抱くお悩みだと思います。
社員の立場からしても、今、会社の業績が良いことはきっと体感的にわかっているハズ。そうであれば、社員の採算意識が少し緩むのもありがちな事だとは思います。そんなときに社長から「もっと売上を上げろ!」「もっと経費を抑えろ!」と言われても、全員が真意を理解して行動するかは定かではないですし、そもそもそれを言うことで会社の空気が悪くなってしまうかもしれません…。
その状況も踏まえて私が改善策として実施させて頂くことになったのが、「ブロックパズルでお金の流れを理解してもらうこと」を目的とした社員研修です。
でも、単なる「勉強をする」社員研修ではいけないと思いました。
その理由は、これまでこの会社は、お金をテーマにした社員研修を行ったことはなく、A社長から「ウチの社員、そんな長い時間むずかしい話聞けるかな…」との懸念もお聞きしていたからです。
研修当日、仕込み前の貴重なお時間に集まって頂いたことにお礼をお伝えし、これからお話する内容をこう伝えました。
「これから皆さんへ“豊かになるため”のお金の話をしていきます。もちろん、会社のお金のこともお話をしていきますが、実は今日は皆さんお一人お一人が“豊かになるため”のお金の話もしていきます。
その話では、例えば、皆さんの中で“ナゼか節約しても貯金がたまらない”と思っている方がいればその理由がわかったり、“奥さんが小遣い増やしてくれない”と思っている方がいればどう伝えれば増やしてくれるのか、がわかったりするかもしれません。」
これをお伝えするとやはり雰囲気が少し変わりました。
これからの話は「会社の事」として構えていたスタンスを、「自分事」として切り替えることができ、聞く耳も持っていただきながら、スタートができました。
まずは、家計のブロックパズルのお話で、いっしょにブロックパズルを描きながら、「収入、税金・社会保険、手取り、日常生活費、娯楽費、貯金」の関係を理解して頂きました。
ここで、“豊かになるため”に理解を深めて頂いたのが、「日常生活費、娯楽費、貯金」のブロックパズル間でのやりくりでは、豊かにならないということです。
「貯金したいからタバコをやめよう」(貯金増やして娯楽費削ろう)
「毎年旅行に行きたいから食費抑えよう」(娯楽費増やして日常生活費削ろう)
この考え方も大切ではありますが、何かを削って何かを増やしているだけであるため、豊かになるわけではありません。
やはり、“豊かになるため”には「手取り」を増やす。そのためには「収入」を増やさないといけない。このことを体系的に理解して頂きました。
では、その「収入」の先に何があるのか…とお伝えしながら、全く同じ形を一緒に描き、会計のブロックパズルのお話をしました。
ここで理解を深めて頂いたのは、
・家計のブロックパズルでお伝えした「日常生活費、娯楽費、貯金」のブロックパズル間でのやりくりでは、豊かにならないのと同じように、会計のブロックパズルでの「人件費、その他固定費、利益」のブロックパズル間でのやりくりでは、豊かにならないこと
だからこそ、
・「売上」を増やし、「粗利」を増やせば、家計のブロックパズルの「収入」に直結する「人件費」が増えるということ
さらに、シミュレーションをしていきながら、
・「売上が100から110に上がれば、人件費も40から44に上がっている。それは年収が10%上がることと同じ。だからこそ売上を上げ、粗利を上げる必要がある」ということを、社員一人ひとりの家計に直結させてお話をさせて頂きました。
ここまでのお話で、A社長が課題に上げていた
「ナゼこれ以上売上を上げないといけないか」「ナゼこれ以上経費を抑えないといけないか」
の理由を社長の立場はもちろん、社員の皆さんの立場も踏まえた上で理解をして頂きました。
ここからは、
「どうすれば売上が上がるか」「どうすれば経費を抑えることができるか」
という課題の実践です。
「粗利を上げることが自分たちの収入に直結すること」を理解したてのモチベーションの高い状態で、研修に参加している社員の皆さんと、「どうすれば売上が上がるか」をテーマに、客数、客単価、リピート率を上げる方法を、「どうすれば経費を抑えることができるか」をテーマに、経費の工夫とアルバイトの活用の方法について、アイデア出しとディスカッションを行いました。
わずかなシンキングタイムでしたが、客数上げるには「SNSで動画を上げてみよう」や、客単価を上げるには「オススメメニューを忘れず提案しよう」、経費の工夫としては「定期的に市場に足を運んで値段を見直そう」など、それぞれのテーマでたくさんのアイデアが出て、各店舗で「今日から何をするか」を決めて、早速実践をして頂くことになりました。
今回の事例は
・社長の危機感と社員の“豊かになりたい”というニーズをつなげて、社員の皆さんに自分事として受け取ってもらうこと。つまり、「ナゼ売上を上げないといけないか」「ナゼ経費を抑えないといけないか」を家計と会計がつながっていることを理解してもらい、会社の業績と自分の生活を連動させること
・場の力を借りて、「どうすれば売上が上がるか」「どうすれば経費を抑えることができるか」のアイデア出しを行い、アイデアは無数に出ることを理解してもらうこと。そしてすぐに実践につなげてもらうこと
の2つをポイントとして進めていきました。
この社員研修以降、積極的な意見や提案が少しずつ出てきているとのことです。
今後もA社長と様々な場面でブロックパズルを活用しながら戦略を練り、ビジョンの実現に向けて、進んでいきたいと思います。
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