スタッフのモチベーションアップはスタッフが本当に欲しいものを経営者が理解すること
2018.08.08 執筆者:和仁 達也キャッシュフロー経営人件費生産性向上
成果報酬を導入する企業や歩合などを取り入れてスタッフの頑張りを期待するといったモチベーションアップの為の報酬を考えている企業は少なからずあると思います。
しかし、成果報酬でモチベーションアップを図ったのにも関わらず、スタッフ間の人間関係の問題が悪くなってしまい、モチベーションは上がるどこおろか下がってしまったという話も聞きます。
いったいなぜ、モチベーションは「報酬アップ」では達成できないでしょうか?
この記事では、実際にあった相談からスタッフのモチベーションアップについて解説しています。
給料アップの訴えが従業員からあった時に考えること
「院長、ちょっとお話があるんですけど」
午前の診療が終わり、院長室に戻ろうとした僕を、ベテラン衛生士の伊藤さんが呼びとめた。
なにやら下を向いて口ごもって要領を得なかったが、よくよく話を聞いてみると、どうやら「給料が働きに見合っていないのではないか」という訴えのようだった。
たしかにここ数年、スタッフが2年未満で入れ替わりがある中、彼女はベテランとして後輩を育て、医院を支えてくれていた。また、最近は定期メンテナンスに来院する患者さんの対応も、僕が口を出さなくてもきっちりやってくれている。
にも関わらず、給料は年功序列型のまま。勤続年数が短いスタッフが多かったこともあり、給料の要求を口にするスタッフはこれまでいなかった。その分「子供が風邪を引いたから休ませてください」などの家庭の事情には最大限応えてきたつもりだった。
(そろそろ、報酬の仕組みも考え直すタイミングかな・・・)
伊藤さんに「一度、よく考えてみるよ」と伝えると、ホッとした表情でペコっとお辞儀をして足早にかけていった。
お金の話は思った以上にエネルギーを消耗するものだ。一人で考えると堂々巡りしそうだったため、経営キャッシュフローコーチに相談することにした。院長室に入り、携帯に手を伸ばす。
「あ、和仁さんですか。スタッフの給与制度について、ちょっと検討しているんですが…」
僕がしゃべりきらないうちに、彼は切り出してきた。
「頑張っている衛生士に対して、成果に応じた給料やボーナスを払ってあげたいということでしょうか?」
「そ、そうです。よくわかりましたね」
「最近、多くの院長からそのような相談をよく受けるんです。『頑張っても頑張らなくても、給料が同じでは、“正直ものが馬鹿を見る”みたいな感じがする。このままだと、みんな不満で辞めてしまうのではないか』と。でもね、よく考えないといけないことが1つあります」
「というと?」
咳払いを1つして、キャッシュフローコーチは続けた。
「スタッフのモチベーションは、本当にお金か?ということです。スタッフのモチベーションを、一人一人、よ~く思い浮かべてみてください。もちろん中には、給料を増やしてほしい人もいるでしょう。でも、みんなそうですか?」
スタッフ名簿を眺めながら、1人ずつ顔を思い浮かべてみた。伊藤さんは「お金」と明快に口にしたが、全員そうか?そうでもなさそうだ。休みが欲しい人、技術を身につけたい人、ねぎらいの声が欲しい人、さまざまだと気がついた。しばらくの沈黙のあと、僕は答えた。
「たしかに、お金だけじゃなさそうです。そこは、ひとまとめにしない方がよさそうですね。
ただ、中にはドクターに依存しないで、担当を持って定期メンテナンスをしている衛生士もいます。彼女には、メンテ担当の患者数が増えた分、給料か賞与を増やしてあげたいです」
「なるほど。では、お尋ねしますが、院長はその人にいくら出してあげたいですか?」
思わず言葉に詰まった。「いくら出してあげたいか?」という視点はなかった。
「世間相場でいくらぐらい出さなきゃいけないか?」という視点しかなかった。
今は佐藤さんには月25万円払っているが、今後の活躍次第では、感覚的にはあと5万円ぐらいは払ってあげてもよさそうな気がする。そのことを伝えると、キャッシュフローコーチはさらに質問を続けてきた。
「伊藤さんは、月に何人、メンテナンスを一人で担当していますか?」
「今は月に延べ60人ぐらいですが、理想的には100人以上目指してほしいと思っています。1回のメンテナンスで患者さんから1万円を受け取っているので、その5%、メンテナンス1人あたり@500円を歩合で支払うのはどうかな、と考えているんですが」
「そうすると、100人に到達したときに、スタッフは5万円の歩合給料がもらえるわけですね。加藤院長の医院の収益構造なら、メンテナンス患者が今後増えていって、1万円の5%、500円をスタッフに還元することは、採算的にはOKです。ただ、それをそのままやると、落とし穴があります」
「落とし穴?」
思わず聞き返すと、彼はひと言。
「伊藤さんだけに成果報酬を出したとき、受付や助手など他のスタッフのモチベーションは下がりませんか?」
盲点だった。たしかに、助手は「衛生士と違って、自分には給料が増える見込みはないのか?」と落胆するかも知れない。受付は「私もアポイントを取ったり電話で来院を促したりサポートしているのに、その貢献は評価されないのか?」と不満を持ちそうだ。そもそも、定期メンテナンスに来院してもらうには、スタッフ全体の協力があってこそ。直接、患者さんと接している衛生士だけを評価すること自体、十分とは言えない気がしてきた。僕の心情を見透かしたかのように、彼は続けた。
「衛生士1人だけではなく、受付や助手など、見えないところでサポートしている人たちにも分配する仕組みにしてはどうですか?」
そうか!1人あたり500円を分配するとして、そのうち50%の250円を衛生士、30%の150円を受付、20%の100円を助手に分配する。その配分はもう少し考えてみるとして、みんなが喜ぶ形がとれたほうが、院内の空気もギクシャクしないで済みそうだ。
「そうですね。なんだか見えてきました。この線で考えてみます」
受話器を置くと、僕は紙とペンを手に、うちの医院にあったスタッフへの還元の仕方について考え始めた。
今回のレッスン
◎スタッフは何をやりがいに働いているのだろうか?スタッフの本当のモチベーションをよく考えてみよう。
◎成果を分配するときは、周りへの影響をよく考えよう。納得感を大切にする。
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