経理が奥さんの歯科医院で喧嘩にならずに医院の経営数字を夫婦で話し合うには?
2018.08.20 執筆者:和仁 達也キャッシュフロー経営コミュニケーション安心安全ポジティブな場づくり
開院してから、人手不足などもあり奥さんに経理をお願いしている医院や会社は結構あります。
そして、最初はよかったのですが、経理を妻にやってもらうと院長や経営者は不満を持つことも少なくありません。
その理由は、自分が設備投資したいときや必要だ!と思った買い物に対して妻はNOを突きつける場合が多かったりするからです。
また、家事や育児と並行しながら手伝ってくれている妻の仕事のスピードに不満を持つ人も多いでしょう。
一方、会計業務をする妻は、「そんな買い物をするから利益を圧迫している!と言われます。
こうやってお互いの不満がぶつかってお金の話では夫婦喧嘩に発展してしまうということも多いです。
この問題は妻を外してしまえばいい!という人もいるのですが、妻に経理を継続してもらいながら、妻と一緒に経営数字を話し会うことはできるのです。
経理を妻にやってもらっているヒロタ院長の場合
「いや~、昨晩は参りましたよ」
開口一番、後輩開業医のヒロタ院長は、加藤院長に告白した。
今日は久し振りに飲もうということで、2人は繁華街に繰り出した。
ヒロタ院長のぼやきの原因は、会計を任せている妻と、経営のかじ取りをしている院長(自分)の間で、意思の疎通がちっともできていないことだった。
妻は、夫である院長の「衝動買いが多く浪費気味なお金の使い方」に不満と不安を訴えていた。
一方夫は、医院の経理を任せている妻に対して、「いつも収支の報告が数か月以上遅れ、収入が大きい月なのに預金残高がマイナスになったりする不安定な現状」に、強い不満を口にした。
そうなると決まって口論となり、結論がでないまま、お互いに「もう、お金の話はやめよう」と口を閉ざす。そして、数か月が経って、再びお金のことで疑問が発生すると同じやり取りを繰り返していた。
「でも、ヒロタ先生の医院は、奥さんがいわば、経理部長なんだよね?
2人でお金のことについて毎月話し合ったりしないの?いや、何か問題が発生してからじゃなくて、現状の立ち位置や、先の資金繰りの見通しを確認するために定期的に話し合うことは?」
「そんなの、ありません」ヒロタ院長は即答した。
「お金の話になると、100%喧嘩別れすることがわかりきっているので、できるだけ妻とはお金の話をしたくないんです」
一呼吸置いて、ヒロタ院長は続けた。
「でも、それじゃいけないってことも、わかってるんですよね。ウチの医院も、もうそれなりの規模になって、僕一人じゃ医院の全体を把握するのもしんどくなってきたし、できたらお金のことは『妻に聞けば、すぐに答えが返ってくる』ようであってほしいんですが・・・」
加藤院長は、中ジョッキをぐいっと飲み干して、店員におかわりをした後、話しかけた。
「『金持ち父さん貧乏父さん』っていうお金のベストセラーを書いたロバート・キヨサキが、以前日本に講演で来たときに、こんなことを言っていたんだ。
『億万長者やお金に不自由しない人が共通してやっていることがある。それは、毎月1回、お金のこと(資産状態や収支の見通し)について、専門家を交えて会話の場を持つことだ』って。
それでわたしは、和仁さんというキャッシュフローコーチに依頼したんだけど、ふつうはいざキャッシュフローコーチに相談しようといっても、能力も千差万別だし、相性の良しあしも始めはわからない。
だから、とっかかりはお金をかけずにやれることをやるといいと思うんだ」
「なんですか、それは?」
加藤院長は、おかわりで届いた中ジョッキを豪快にあおった。
「今、雇っている税理士やファイナンシャルプランナーなど、お金の話ができる外部の人、いわゆる第三者を巻き込んで、月1回、30分でいいから奥さんと経営会議をやるんだよ。身内同士で話し合うと、どうしても感情が邪魔をして、建設的な話し合いにならないだろ?でも、アカの他人がその場に同席することで、いい意味で緊張感が生まれ、慣れ合いにならずに済むんだ。そして、専門家の目から見たコメントをさしはさんでもらったり、言葉足らずを補足してもらったり、客観的な意見をもらうことで、話が前に転がりだすことも多いと思うよ」
「なるほどね・・・。たしかに僕たち夫婦だけで話すよりも、前向きなやりとりができそうな気はします。でも、具体的には、どんな会話をすればいいんでしょう?」
加藤院長は、かつてキャッシュフローコーチの和仁から教わったことを伝えようと、言葉を探した。
「まずヒロタ先生の場合、経営会議をする目的は、当面は、①医院の現状のお金の収支の良し悪しの把握と、今後の資金繰りの見通しが立つようにすること、そして②理想の売上、利益目標を明確にして、現状とのギャップをわかる仕組みにすること、の2つだと思うんだ。どう?」
ヒロタ院長はうなずいた。「まず、それを院長として知りたいです」
「だったら、まずはおおざっぱに把握するために、こんなお金のブロックパズルの中に実際の金額を入れて、眺めてみるといいよ。具体的な数字は、経理の奥さんが計上した決算データに載っているから、税理士に手伝ってもらいながらこの図に転記していくとスムーズだ。すると、きれいな形(図①)になるのか、それともゆがんだ形(図②)になるのか、視覚的によくわかる。その収入と支出の差額も、きちんと金額で把握したほうがいい」
加藤院長は、紙ナプキンを手にすると、2つの図を描き始めた。
「それで、おおざっぱに全体をつかんだ上で、何か問題があると感じたら、次にもう少し具体的な図に数字を落としこんでみるんだ。それは、また今度会ったときに詳しく説明するから、まずはここまで奥さんと話してみたらどうかな?」
「第三者を巻き込んで、月1回、妻とお金の話をする、か。わかりました。たしかに、僕たち夫婦だけで会話するよりもそのほうがスムーズな気がするし、図を描いて話したほうが、話が具体的に進展しそうな気がしてきました」
ヒロタ院長は、加藤院長が書き込んだ紙ナプキンを大切そうに折り曲げてポケットに入れ、泡の抜けたビールを一気に飲みほした。
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今回のレッスン
◎家族同士で医院のお金や経営方針の話をする際、感情が支配して、建設的な会話にならないことがある。そのときは、専門家など第三者を同席させると話が前に転がり始める。
◎奥さんが経理を担当している歯科医院では、お互いの情報量を一致させるために、家族内・経営会議が必要。月1回、30分で良いので、「問題が発生してから」ではなく「定期的に」やってみよう。そのときは、簡単なお金のブロックパズル図を描いてそれを一緒に見ながら会話をすること。