【歯科医師リタイヤの考え方】歯科は生涯でいくら稼ぐの? 歯科医師は引退時にいくらお金が手元に残るのか?
2018.08.28 執筆者:和仁 達也キャッシュフロー経営資金繰り
歯科医院の生涯年収はいくらくらい稼げるのでしょうか?
実際に、医院を開業して、自分が引退するまでにどのくらい稼ぐのか?
または、稼げばいいのかということを考える先生は少ないと思います。
しかし、技術職である歯科の先生には「引退」する時期は必ずやってきます。
その時に一体いくらお金が手元に残っているのかを考えたことはありますか?
設備投資に結構なお金がかかる歯科医院開業は借金してスタートする医院が多いですよね。
患者さんも安定し、利益は取れているけどと思っている先生でも、未来に残るお金のことを知っておく必要があると思います。
約2時間の外資系生命保険の営業マンとの会話のあと、加藤院長はもの思いにふけっていた。
「引退のときに安心して余生を過ごすにはいくらの貯金が必要か、一度考えてみてはいかがでしょうか」
という、営業マンから投げかけられた提案が頭にひっかかっていたのだ。
「今まで考えたこともなかったけど、歯科医師は開業して引退するまでに、いくら稼いで、いくらのお金が手元に残るんだろうか?」
・一般に歯科は開業で5千万円かかる。さらに数年後には設備投資で、数千万円の借入をする。
また、子供が歯科大学に入るとなると、学費で3~4千万円。
つまり、ほとんどのドクターが50歳までに計1億円以上の負債を余儀なくされる。
・一方では完全に需給バランスが崩れて、開業医の5人に1人は年収が200万円以下という事実も歯科医師内でささやかれている状況。
・今後、インプラントやメンテナンス、再生医療など、新たな試みをしたい意欲のあるドクターも、この状況では、お金がかかることは怖くてチャレンジができない。
・たとえばインプラントも、機材や材料のほかに、研修費やオペ中は他のチェアに患者を入れられないなど、目に見えにくいコストも発生する。それを踏まえると、投資回収して利益が出るのは、早くても3年後、5年以上かかることもある。
それをわからずに安易に低価格の値付けをすると、5年経っても投資回収ができず、途中であきらめるドクターもいる。
・「やるべきことをきっちりやっていった場合、リタイアまでにいくらの貯金をすれば、お金の心配をしなくて済むのか?」また、「そのためにはいくら稼ぐ必要があるか?」を具体的にわかっておく必要があるんじゃないか?
・特に、これから人口は減少していく右肩下がりの時代には、先の見通しを知らずにやみくもに経営をしていくなんて、怖くてできないなあ・・・。
そんな話をキャッシュフローコーチの和仁に投げかけてみると、意外な質問が返ってきた。
「院長、普通のサラリーマンは、生涯にいくら稼ぐと思いますか?」
まったく見当もつかず、しばらく黙っていると、キャッシュフローコーチは続けた。
「もちろん、大企業か中小企業かによっても年収は違うし、いまだ年功序列的な風土の残る日本の企業と成果至上主義の外資系企業とではかなり差がでるので、一概には言えません。
そこで、単純計算で、年収4百万円の人が、仮に20歳から60歳まで40年間働き続けたとすると、1億6千万円です。もちろん、若いうちはもっと少なく、歳をとるともっと大きい可能性があるので、あくまで平均値が4百万円としての話です。あとここに退職金が加わるとして、ざっくり2億円弱ぐらいになります」
なるほど、そんなものかと思いながら耳を傾ける。
「それに対して、歯科医院の場合、いくらのお金が出入りするのか。これも、あまり厳密ではなく、おおざっぱに考えたほうがいいです。あまりに細かく正確に考えだすと、医院の規模がどうなってスタッフを何人雇って、税金の計算はどうなるか、と複雑になりすぎて、かえって訳がわからなくなるからです」
うなずきながら聞き入る加藤院長の前で、キャッシュフローコーチはパソコンを開いて、エクセルで表を作り始めた。
縦軸に年数、横軸には、売上、粗利、人件費をはじめとした固定費、利益、返済額、最終のキャッシュフロー(お金の入り)を入力していった。そして、各年の数字を加藤院長の希望を聞きだして手早く打ちこんでいく。
30分ほどが経ち、エクセルの表が完成。すると、紙を1枚とりだし、エクセルの表をもとに、いつものお金のブロックパズルの図にして院長に見せた。
「院長が31歳で開業し、今後イメージ通りの発展を遂げていった場合、こんな感じになります」
キャッシュフローコーチは続けた。
「つまり31歳で6千万円の借金で開業し、65歳で引退するまでの35年間のお金の収支です。
開業時の売上が33百万円でスタートし、10年間で70百万円に到達。それ以降、自費率は増えつつも、売上としてはその水準をずっと維持し続けていくとします。
チェアは5台、院長ふくめドクター2人にスタッフ5人で、医院の拡張やチェアの増設などで追加投資も行い、65歳で3千万円の退職金を院長に支払った場合のイメージです。
話をシンプルにするため、医院にかかる税金は減価償却費と相殺してありますけどね。
つまり、診療活動によって33百万円の現金が医院に残る計算になります。
そして、タナカ院長夫婦の開業後の生涯年収は退職金をあわせて4億2千万円になります。
もしこのシナリオ通りにいくとしたら、将来息子さんに医院を譲る際に多額の借金を背負わせる心配はなさそうです。
建物やスタッフ、患者さんという医院基盤と共に現金をあわせて譲ることができる、ということですね。
もっともこれは歯科医院としては、チェア5台で順調に医院を発展させていけたという楽観的な想定ですので、できればもう1つ、現実的な水準の『最低必達レベルのプラン』も必要だと思います。
ちなみに、これは院長個人の家計とは別で、あくまで医院としての話です」
「生涯で稼ぐ売上が23億円に、利益が約8千万円か・・・」
加藤院長は、その桁数のあまりの大きさに、現実味がわかなかった。また、概算のシミュレーションなので、実際には誤差もあるだろう。
ただ、何も知らないよりは、マシである。これをたたき台に、税理士や生命保険の担当者に相談をして、一生お金のことで悩まずに医療に専念できる青写真が描けそうな気がした。
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今回のレッスン
◎金利の変動、税法の変更など、今わからないことは無視して、「今わかる範囲で」理想のシナリオを描いてみる。
◎そのシナリオが院長の頭の中にしかないなら、誰もアドバイスができない。おおざっぱなラフ案でもあれば、それをもとに専門家と相談し、より具体的な話し合いができる。