価格競争を脱却するには? 価格以外の価値基準を持つ。
2026.06.15 執筆者:和仁 達也
キャッシュフローコーチキャッシュフロー経営着眼点
買うときも売るときも、価値基準の上位にくるのが「価格」でしょう。
しかし、「安売り」「値引き」などの価格競争から脱却したければ、
それ以外の価値基準が必要です。
今日はそれを歯科医院の事例ストーリーでお届けします。
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ホワイト歯科では、院長の長男である和也が次期後継者として
医院を引き継ぐことが決まっていた。
まだしばらく先とは言え、加藤院長は後継者育成を兼ねて、
「新たな設備の導入をするか否かの判断と具体的な選定」
を和也に任せていた。
ところがあれから何日も経つが、その後の報告がなかった。
業を煮やした加藤院長は、和也を院長室に呼んで尋ねた。
「例の設備の件だけど、その後どうなった?」
和也は気まずそうな表情で答えた。
「うん、あれからネットで調べて確認しているんだけど、
まだ決めかねていて・・・。ネットで調べると、
後からさらに“安い”ものが見つかって、まだ保留中です」
加藤院長は尋ねた。
「あれから10日以上経ってるけど、その調査にどれぐらい時間をかけているの?」
和也は答えた。
「診療が終わってからちょくちょくネットで
“安い”ものがないか調べていて、トータルで
6時間以上かかっていると思います」
加藤院長は、和也が“安い”と価格のことしか
口にしないことが気になり、さらに質問を続けた。
「今回の設備を入れるかどうか、また入れるにしたら
どこから買うかについて、“安さ”つまり価格以外に何を基準にしてる?」
和也は答えた。
「えっと、ユーザの評判や、使いやすさ、
何年ぐらい使えそうかなどを気にして見ているんだけど、
あまり情報がなくて、結局、価格だけで決めてしまいそうでした」
ネットでわからないことがあれば、その会社に連絡して
営業マンに説明してもらえば良いし、資料を取り寄せても良いだろう。
だが、そのような事はしていないようだった。
何でも、ネットで調べられる時代だし、小さい頃から
スマホに使い慣れている世代であるが故に、直接人に会って
情報を引き出すことに慣れていないのかもしれない。
また、ネットでの情報収集に6時間を費やしたとのことだが、
自分の時給に対する意識はあるのだろうか?
月給が80万円で、週40時間、月に160時間働いて
いるのであれば、時給換算で5千円となる。
時給5千円の人が6時間を使えば3万円のコストがかかったに等しい。
「さらに1万円安く買えないか?」を追求するために
3万円のコストをかけるのはナンセンスだ、と言うことに
気がついていないようだ。
加藤院長がそのことをやんわり伝えると、和也は
はっとした表情でうつむいた。
加藤院長は続けた。
「とは言え、もちろんそれなりにリーズナブルに買うことも大切だよ。
そこで、”リサーチにかける制限時間”をあらかじめ決めて
取り組んだらどうだろう。
例えば、今回のことで言えば、
『数十万円の設備をさらに安く買う際に、その差が1万円以内
なのであれば、リサーチにかける時間は最大でも2時間まで』
と言うように。
和也が理解しようとしているのを確認すると、
加藤院長はお茶をひと口飲んで話を続けた。
「それともう一つ。買うときに、安さが優先する人は、
自分が売る時もそうなりがちだ。
それは我々歯科医院で言えば、自費診療の価格を
どう設定するかに影響するんだ。
『安ければ安いほど患者さんにとって良い』と言う価値観で行くと、
価格はどんどん安くしてしまい、医院経営を圧迫するだろう。
一方、安さ以外の価値基準を重要視するなら、
その価値基準をきちんと伝える前提で正当な価格を設定すれば、
医院経営が健全化することにもつながるだろう。」
和也は尋ねた。
「金額以外の価値基準を伝えるってどういうこと?」
加藤院長は話を続けた。
「例えば、かぶせ物で言えば、金額以外にどんな基準があるだろうか?」
①材質によっては体に与える影響もあるから安全性。
②どれだけ長く持つかの耐久性。
③その材質がどのくらい機能的に働いてくれるかを示す機能性。
④人目に触れやすい前歯だったら美しさも大事だろうから、審美性。
⑤治療法によっては、治療時間や期間も異なるから、効率性。
それらに加えて、
⑥いくらかかるかの経済性。
「それらの視点で一長一短をきちんと説明した上で、
患者さんはどれが自分に1番合うかを納得して決めたいはずなんだ。
ところがこちらがそのような価値基準を伝えてあげなければ、
患者さんは選び方がわからないので、価値基準が価格だけになる。
そうなると少しでも安い方が良いので、
『保険診療でお願い』と言うんじゃないかな。
それは我々医療人側が情報をきちんと伝えきれてないとも言えると思うんだ」
和也は大きくうなずき、あいづちを入れた。
「これは補綴だけじゃなく、最新の治療法も含めた
全ての自費診療に言えることですよね。
なるほど、勤務医の時はドクターとして診療のことだけ
考えていたけど、院長になるとこういうことも考えおく必要があるんだな・・・」
加藤院長は微笑みながら問いかけた。
「今日の話で、和也が気づいたことを復唱してくれるかな?」
「はい、一つは自分の時給を意識した時間の使い方をすること。
これは、経営者になったらスタッフの時間の使い方も
気にする必要があるってことですね。
二つ目は、自分が提供するときも価格の安さ以外の価値基準を持つこと。
それをちゃんと考えて価格を決めたり患者さんに情報提供することが、
健全な経営につながる、ということで、合っていますか?」
加藤院長はかつて自分がキャッシュフローコーチから教わったことを、
今度は息子に伝える側にまわっていることが感慨深かった。
【今回のレッスン】
◎自分の時給を意識した時間の使い方をする。
経営者になったらスタッフの時間の使い方も気にする必要がある。
◎価格の安さ以外の価値基準を持つ。
それをちゃんと考えて価格を決めたり患者さんに情報提供することが、
健全な経営につながる。











































