間違った努力で疲弊してしまわないために「正しい判断をもたらす“標準値”を知ろう」
2021.07.02 執筆者:和仁 達也キャッシュフロー経営歯科医院着眼点
もっと収益をあげようと!と考えている経営者にとっては、
売上高はとても大切な数字になると思います。
ですが、頑張ってもなかなかお金が残らずに、
もっと頑張らないといけない!とスタッフにも破っぱをかけて頑張っている医院も多いでしょう。
しかし、頑張っているはずなのに結果がついてこないと、自分もスッタフも疲弊してしまいます。
そんな時は、もしかしたら努力するところを間違っているのかもしれません。
この記事では、間違った努力で疲弊してしまわないために
「正しい判断をもたらす“標準値”」をお伝えしまいます。
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ホワイト歯科はいつも患者にあふれて、賑わっているように見えた。
ところが医院の収支を見ると決して余裕はなく、
院長報酬はここ何年も横ばいのままだった。
かろうじてスタッフには年2回のボーナスを支払えているが、
それも院長報酬を低めに抑えているからなんとか支払えている状況だった。
そんな中、加藤院長はひとり院長室にこもって、自問自答していた。
(ちゃんと患者さんも来てくれていて、それなりに忙しいはずなのに、
なぜ、こんなにお金が残らないんだろうか?
たぶん、まだスタッフの動きに無駄があるから、
動線や診療動作を効率化すれば今より10%は余力ができて、
その分多くの患者さんを診ることができるはずだ。
どうしたら、もっと来院数を増やせるのか?
ここ数年、口コミ頼りで来ていたが、そろそろ
広告に力を入れるべきだろうか?)
翌日。
そんな思いを巡らせながら参加したキャッシュフロー経営セミナーの
休憩時、さっそく講師であるキャッシュフローコーチの和仁に
相談を持ちかけた。
「そんな訳で、今年は院長報酬をそれなりに受け取れるよう、
売上を10%アップさせたいと思っています。
そこで、集客アップについてアイデアをいただきたいのですが」
和仁は、加藤院長が手渡した決算資料にパラパラと目をやると、
意外な一言を投げかけた。
「本当に、課題はそこでしょうかね?」
「はい?」
加藤院長はすっとんきょうな声をあげた。
「そこでしょうか、と言いますと?」
和仁はにこやかに答えた。
「いや、たしかにまだ効率化の余地はあるのでしょうし、
もっと集客もできるとは思いますよ。
ただ、ホワイト歯科さんの優先順位の上にある課題は、
そこじゃないような気がしたんです」
キャッシュフローコーチはそう言うと
決算書を机において、電卓をはじいてから、尋ねた。
「加藤先生、今、自費収入の割合が4割近くありますね。
保険診療だけに頼らず、一定の自費収入があるのはすばらしいです。
ところでこの自費診療、ちゃんと納得の価格を提示できていますか?」
加藤院長がウッと言葉をつまらせるのを見て、和仁は話を続けた。
「と言いますのはね、ホワイト歯科さんの粗利率が75%なんですよ。
歯科医院の標準値は80%なので、これは自費診療を促進するために、
本来の価格よりかなり安くしているんじゃないかと思いましてね」
図星だった。
保険診療では納得の治療がしにくいからと、
自費診療を促進しているものの、「あの医院は高い」という
悪評判が立つことを恐れて、高品質な材料と技工物を使っている割に、
それを価格に転嫁できずにいた。
「もしかすると、今やるべきことは『集客数のアップ』ではなく、
その前に『粗利率のアップ』かも知れませんね。
その場合、とるべき対策は『どう広告を打つか』ではありません。
ちなみに、これだけ自費収入があるということは、
診療技術は高いとみていいですね?」
「はい、そこは自信があります」と、加藤院長は胸を張り、
さっきとは打って変わって自信に満ちた表情で答えた。
「なるほど、『診療の価値は十分高い』わけですね。
だとすると、おそらく今の課題は
①『価値の見える化』と
②『価値を伝える教育』でしょう。
おそらくホワイト歯科の治療技術の高さや効果、
そして使っている材料や技工物の価値が患者さんに
ちゃんと伝わっていないのではないか、
と思うのですが、その点はどう思いますか?」
痛いところを突かれた、という表情でうなずき、背中を丸めた。
「それなら、まず『当院がおこなう診療がいかに価値があって、
患者さんにどんなメリットをもたらすものなのか』を
わかりやすく伝えるツールやトークを準備したいですね。
それが『価値の見える化』です。
そして、それをスタッフが“言ったり言わなかったり”
ではなく、常にコンスタントに患者さんに伝えるための
ロールプレイングなどの訓練もしたいところです。
それが『価値を伝える教育』です。
わたしたちのような経営コンサルティングの分野も
そうですが、歯科診療はカタチがあるようでないので、
その価値が目に見えにくいんですよね。
なので、提供者側がわかりやすく伝えていかないと、
患者さんに価値として認識してもらえず、
それはひいては『価格の安さだけが判断基準になる』という、
消耗戦になりがちなんです。そこは避けたいですよね?」
「もちろんです!そうか、わたしは優先順位を
間違えそうになっていたんですね。それにしても、
なぜそれが一瞬で見抜かれたんでしょうか?」
キャッシュフローコーチは笑顔で答えた。
「それは、
正しい判断をもたらすための“標準値”を知っているからです。
今の例で言えば、歯科医院の粗利率は80〜85%という標準値です。
そこから外れているとしたら、相応の原因が隠れているはずですからね。
そのあたりは後半のセミナーでお伝えするのでお楽しみに!
ではそろそろ講義を再開しましょうか」
【今回のレッスン】
◎売上をアップする道は「集客」一つではない。
マネジメントの課題を放ったらかしのまま安直に集客に走ると、
忙しくなるばかりで、逆効果になる恐れすらある。
◎例えば、かえって「クレームが増えてスタッフが疲弊」したり、
「いつも待たされるわよ、などと悪い噂が広まる」など。
◎納得の正しい判断をするカギは、“標準値”を知っていること。
そこから外れていたら、相応の原因が隠れている。
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