「プロの思考整理術」(和仁達也・著)のはじめに&序章&1章(104頁分)を無料公開
2021.11.18 執筆者:和仁 達也コミュニケーションビジョナリーコーチング思考整理着眼点
Contents
- 1 仕事も人間関係も、思考整理が9割!
- 2 <目次>
- 3 <序章> 思考整理をすれば気疲れフリーになれる!
- 4 ● 相手のイライラ、モヤモヤを消し去るたった1つの方法
- 5 ● 人はみな、アドバイスを求めていない~僕が相手の思考整理を始めたきっかけ
- 6 ● 相手を変えようとしなくても思考整理だけすればいい!
- 7 ● 思考整理でオンラインでも気疲れを減らせる
- 8 ● 仕事でも、プライベートでも!相手の心を整えれば、みんなが自分の味方になる
- 9 <第1章>相手の思考整理をする前に知っておきたいこと
- 10 ● 思考整理で使う質問には2種類ある
- 11 ● 「何をしゃべるか、聞くか」の前に、場づくりを優先する
- 12 ● ムダなことなど1つもない!「積み石&捨て石効果」で何でも話せる環境をつくる
- 13 ● 誰でも「お困りごとトップ3」がある
- 14 ● 仮説を立てながら聞く
- 15 ● 「伴走者になる」と決める
- 16 ● 「相手起点」で考えよう
- 17 ●「前置きトーク」で心を開きやすくする
- 18 ● 「脱★完璧主義」でいこう
仕事も人間関係も、思考整理が9割!
本書の思考整理術を「自分の頭のモヤモヤを解消したい」人や、お客様や部下、友人、家族の相談に乗って感謝され、より良い関係性を育みたいビジネスパーソンの皆さんにお届けします。
資格や経験・知識量は問わず、学んだその日から活用でき、仕事やプライベートで成果が出ます。大切な人の悩みの解決に関わることで、感謝されることでしょう。
僕は27歳で経営コンサルタントとして独立し、23年が経ちました。今ではこの思考整理術で頼を得て、高額報酬を得ながら顧問契約が10年以上続くスタイルを確立。年間報酬3000万円超えを15年以上続けてきました。
コンサルタントは「顧客の問題解決のために、相談に乗る職業」の代表格と言われますが、そこで求められるのは、成功パターンや専門知識を教えることではありません。正解が1つとは限らず多様性が重視される今の時代、成功パターンなど数年で陳腐化して使えなくなってしまいます。
それに、求められてもいないのにするアドバイスは〝おせっかい〟です。トップコンサルタンは、余計なアドバイスは一切しません。相手と一緒に考え、真の問題を見出し、解決策は相手自身に見つけてもらいます。その原動力となるのが、本書で紹介する思考整理術です。
僕は現在、自分のクライアントへの経営コンサルティングのほかに、1000人を超える全国のコンサルタントの方々に和仁流コンサル・メソッドを伝授する一方で、20年間で14冊の書籍を出版。コンテンツサイトやメルマガなどを通じて発信力を高めてきました。
本書では、僕の活動の核となっている「プロのコンサルタントの思考整理術」を、すべてのビジネスパーソンが日常的に使えるよう、できる限りシンプルにしてお伝えします。仕事はもちろん、プライベートの人間関係も好転すると、多くの方からご好評をいただいています。
この思考整理術のユニークなところは、
相談に乗るスタート時点では、コンサルタントの頭の中にも正解がない、
ということです。
ところが、僕が編み出した「思考整理の4ステップ」に沿って質問を重ね、「着眼点」「事例ストーリー」「図解」などのスパイスを加えて対話を重ねていくうちに、数十分後には解決策が目の前に広がっていきます。まるで宝探しの旅をしているような醍醐味があります。
さらに思考整理が進むと、「顕在化した問題を解決する」ステージから、「まだ意識されていない課題を発見して、それを追求する」次のステージにシフトでき、相手も自分もワクワクが止まらなくなるでしょう。
コンサルタントの仕事は、顧客の思考整理がすべてと言っても過言ではありません。
なぜ、27歳という若輩者だった僕が、実績や知識量に関係なくコンサルタントで起業でき、20年以上活躍できているのか? その理由は、専門知識を駆使して上からアドバイスするのではなく、クライアントと一緒に問題解決するための思考整理術を磨き上げてきたからです。
とくに、思考整理において成果に大きく直結する決め手が、着眼点です。
目のつけどころ次第で、成果の大小は決まってしまいます。
1991年に猛威を振るった台風19号で、りんごの落下被害に見舞われた青森県の若手農家が、「落ちた9割のりんごの活かし方」ではなく、「(大変な逆境にも負けずに)落ちなかった1割のりんごの〝運の強さ〟」に着眼して、全国の受験生をメインターゲットに「落ちないりんご」として販売して大成功した、という有名なエピソードがあります。
この実例からもわかるように、着眼点がよければ、悲劇をサクセスストーリーに変えることすら可能です。
本書では、この「着眼点」のほか「思考整理の4ステップ」「事例ストーリー」「図解」のそれぞれに1章ずつ割いて解説しています。
これらの武器を上手に使い分けながら、大切な人の相談に乗って感謝される「プロの思考整理術」をあますことなくお伝えします。
きっと、あなたの仕事やプライベートにもお役立ていただけると信じています。
2021年10月 和仁達也
【お知らせ】
今なら本書を1冊買うと、和仁達也がこの思考整理術を90分直接お伝えするセミナー動画がもらえるキャンペーン中です。詳しくはこちらからどうぞ。
<目次>
はじめに
【序章】
思考整理をすれば気疲れフリーになれる!
プロの思考整理術の4ステップ
相手がみるみる心を開く思考整理術
相手のイライラ、モヤモヤを消し去るたった1つの方法
人はみな、アドバイスを求めていない 〜僕が相手の思考整理を始めたきっかけ
相手を変えようとしなくても思考整理だけすればいい!
思考整理でオンラインでも気疲れを減らせる
仕事でも、プライベートでも!相手の心を整えれば、みんなが自分の味方になる
【第1章】
相手の思考整理をする前に知っておきたいこと
思考整理では2つのことを整理できる
思考整理で使う質問には2種類ある
「何をしゃべるか、聞くか」の前に、場づくりを優先する
ムダなことなど1つもない!「積み石&捨て石効果」で何でも話せる環境をつくる
誰でも「お困りごとトップ3」がある
仮説を立てながら聞く
「伴走者になる」と決める
「相手起点」で考えよう
「前置きトーク」で心を開きやすくする
「脱★完璧主義」でいこう
【第2章】
相手が思わず動いてしまう思考整理の4ステップ
「ぶきっちょさん」でも大丈夫。プロの思考整理術で覚えるのは4ステップだけ!
「仮置き」を多用するのがポイント。相手の思考整理の4ステップ
【ステップ1】タイトルを決める
【ステップ2】現状を知る
【ステップ3】理想を描く
【ステップ4】条件を探す(理想に近づくために)
4つのステップ実践編 実例1「起業家から受けた事業拡大の相談」
4つのステップ実践編 実例2「もうひと伸びしてほしい部下との面談」
4つのステップはグルグル回る
思考整理の最中に意識したい「3つのポイント」
4つのステップをパワーアップさせる「3つのツール」
【第3章】
思考整理で相手のどこを見るか
―― 7つの着眼点
着眼点が正しければ「宝」が見つかる
【着眼点1】相手が自分の価値に気づいているか 〜価値の見える化〜
【着眼点2】発想が貧弱になっていないか 〜極端に振り切る〜
【着眼点3】視点のバランス 〜抽象度と具体度のレバー〜
【着眼点4】数字で表現できているか 〜数値化〜
【着眼点5】トゲがどこにあり、どう解消するか 〜マーケティングのトゲ〜
【着眼点6】自分のコスパをイメージできているか 〜投資回収〜
【着眼点7】情報が共有できているか 〜情報量の不一致〜
【第4章】
思考整理で行き詰まったときにどうするか
―― 事例ストーリー
相手の思考が止まったら、ストーリーの力を借りよう
事例ストーリーの「3つのパターン」
他人ごとを自分ごとにする事例ストーリーの効果
相手を主人公にした物語をつくる
相手の内側に入り込む〝幽体離脱〞イメージ法
事例ストーリーのストックの仕方
【第5章】
思考整理の「見える化」
―― 図解
図解にすれば、一瞬で思考整理できる
思考整理に役立つ図解「5つのパターン」
⑴ スケジュールを表したいときは「チャート図」
⑵ 人間関係を表したいときは「関係図」
⑶ 話があちこちに飛ぶときは「マインドマップ式全体図」
⑷盲点を見つけたいときは「マトリックス」
⑸ 全体の関係性を知りたいときは「階層化ピラミッド」
【第6章】
思考整理のスピードを上げる
「引き出し」の増やし方
◎やって損はない。続ければ誰でも上達する「話の要約の仕方」
◎頭を空っぽにできるシステムをつくる
◎1アクション3ゴールで「相手の幸せの最大化」を考えよう
おわりに
<序章> 思考整理をすれば気疲れフリーになれる!
● プロの思考整理術の4ステップ
この本で提案する「プロの思考整理術」とは、今までにない思考整理の方法です。従来の思考整理は、自分の考えを整理するために使う方法で、考えがまとまらないときやモヤモヤと悩んでいるときに、自分の頭の中をスッキリと整理させるために使っていました。
本書で提唱するのは、その方法を相手に応用して、相手の思考を整えてあげる「最強のメソッド」です。
プロの思考整理術のために必要なのは、たった4つのステップを覚えるだけ。
まずは、その4つのステップを紹介します(次ページの図0 −1参照)。
ステップ1 タイトルを決める
ステップ2 現状を知る
ステップ3 理想を描く
ステップ4 条件を探す
この4つのステップを三角形の図を書きながら順に追っていくと、モヤモヤ、イライラしていた相手の思考はスッキリします。さらに、自分の気持ちもスッキリします!
信じられないかもしれませんが、僕はもう20年ぐらいこのシンプルな4つのステップを使って、大勢の人の思考整理をしてきました。自分で実践して効果を実感しているので、今回、皆さんにもご紹介しようと思い立ちました。
詳しくは第2章でお話ししますが、難しいテクニックは必要ありません。
超簡単で即試せる、4つのステップをぜひ実践してみてほしいです。
● 相手がみるみる心を開く思考整理術
皆さんは、最近気疲れしてグッタリすることがありませんか?
人と話していても、SNSでやりとりしていても、「こんなことを言ったら、なんて思われるかな?」「悪く思われたらどうしよう」と気を遣ってばかりで、疲れている人が増えている気がします。
そこで、本書では新しいコミュニケーションの方法を提案し、「気疲れフリー」を実現します。
今は不用意にした発言や行動がネットですぐに拡散され、失敗やミスは永久に残るようになってしまいました。なにげなくした発言でも、「ハラスメントだ」と非難されることもあり、誰にも問題にされないような発言をするのは、本当に難しい。
いくら注意していても、ミスや失敗をゼロにするために頑張るのは、ちょっとしんどいですよね。
それに、今は「頑張れと言ったら相手を追い詰めてしまう」と言われるぐらいです。悩んでいる相手を励ましたくても、元気づけたくても、どんな言葉をかければいいのか、ためらうこともありませんか?
そんな人間関係の気疲れから自由になるのに有効なのが、本書で紹介する「プロの思考整理術」です。
僕は今まで経営コンサルタントとして、またコンサルタントを育てるための養成塾やセミナーを開いている立場として、大勢の人の悩みに接してきました。ちなみに、僕はその人にとって重要な、真の悩みのことを「お困りごと」と呼んでいます。
コンサルタントと聞くと、画期的なアイデアを提案して、企業を劇的に立ち直らせる人という印象があるかもしれませんが、僕はアイデアも解決策も提案していません。
僕は相手がその答えを導き出すためのサポートをするだけ。あるとき、そのプロセスが相手の思考を整理していることになると気づきました。
「自分の頭の中は自分にしか整理できないんじゃ?」と思う方もいるでしょう。でも、人の心はそう単純ではない。だから、占いや宗教に頼ったりして、他人に何とかしてもらおうとするのかもしれません。
相手がモヤモヤから抜け出すのをサポートするのが、本書で紹介するプロの思考整理術です。
相手の思考を整理するといっても、心理的なテクニックを使って操縦する方法ではありません。僕が実践しているのは、特別な技術がいらない方法です。
この思考整理術が楽なのは、「どんな言葉をかけて励まそう」とか、「どんな言葉がけで相手のやる気を出させよう」などと、悩む必要がない点です。
斬新なアイデアを提案したり、アドバイスをしなくても、相手のこんがらがっている思考を整理すればいいだけ。そうすれば、相手はみるみる心を開いてくれます。
たとえば、相手が「上司とうまくいってない」と悩んでいたとします。
話を聞いてみると、「上司は私のことを嫌ってるんだ」「私の意見は全然聞いてくれない」とグチが次々とこぼれます。
ここで、「それは大変だね」「あなたは何も悪いことしてないのね」などと共感しながら話を聞くのが、一般的なコミュニケーションです。言葉を選ばずに、うっかり「上司も忙しいんじゃないの?」などと発言すると、「上司の肩を持った!」と相手は急速に心を閉ざしてしまいます。
相手の思考整理をするときは、共感する必要も、自分の意見を言う必要もありません。
「どうして上司は自分のことを嫌ってると思うの?」
「どんな意見を聞いてもらいたいと思ってるの?」
「上司とどんな関係になりたい?」
このように質問を投げかけて答えてもらううちに、相手は段々冷静になり、「そっか。一度上司と話し合う時間を作ってもらおうかな」と自分で答えを出してスッキリします。
気持ちがスッキリしたら、「上司と話し合ったら、報告するね」と言ってくれるかもしれません。こうなったら、相手は自分を信頼してくれているので、良好なコミュニケーションを築けます。
自分はストレスフリーで、しかも相手は心を開いてくれるので、ノーリスクで楽しくコミュニケーションができる。それがプロの思考整理術の効果です。
「頑張れ」と励まさなくても、思考整理をすれば、相手は自分で「頑張ろう」と立ちあがれます。そのうえ、自分が相手の味方であることもきちんと伝わるので、相手も自分の味方になってくれるでしょう。
プロの思考整理術はこれからの時代に武器となる、最強のコミュニケーション術です。
● 相手のイライラ、モヤモヤを消し去るたった1つの方法
以前、友人からある人を紹介したいと言われ、3人で食事をしたときの話です。
お酒も進んで場がすっかり和んだ頃、友人から「ちょっと、コイツの話を聞いてもらえないか。最近、なんだか元気なくて」と言われたので引き受けました。
その知人(Aさんとします)に話を聞いてみると、IT関係の会社を経営されていて、業績は順調で社員も育ってきており、仕事を安心して任せられるようになったとのこと。
普通なら、思い悩むどころか順風満帆、いい状況です。
ところが、Aさんは「なんだか最近やる気が出なくて」と、ため息まじりにこぼします。
「失礼ですが、どこか身体に不調があるんですか?」
僕が尋ねると、「いいえ、体調は絶好調です。でも、なんかパワーが出ないんですよね」
との返答です。
「ご家族で最近、何かトラブルがあったりしましたか?」
「いえ、とくに何もないですね。妻は元気で自宅でフラワーアレンジメントの教室を開いてるし、息子は受験に合格したばっかりだし」
「それはいいですね。元気がないのは、どれぐらいの間、そんな感じなんですか」
「ここ1年ぐらいです」
仕事は好調で、家族の問題もなく、健康の悩みでもなさそうです。
僕は、Aさんが何で悩んでいるのかを突き止めるために、「今はワクワクすることはありますか」と聞いてみました。
「ないなあ」
「それはどうしてですか?」
「最近は会社に行ってもすることがなくて、楽なんです」
仕事で楽できるなら、羨ましい環境ですが、本人にとってはどうやら空虚なようです。
「2、3年前はどうでしたか」
「2、3年前は、社員を教えたり問題解決で結構エネルギーを使ってましたね」
「そのころはワクワクしていた?」
「してました。会社に行くのも楽しかったし。今は、社員は自立して動いてくれているから、たまにメールで報告をもらって返事をするぐらいで。会社に行っても様子を見てすぐ帰ってくるから、手持ち無沙汰な感じです」
「会社で居場所って感じますか?」
こう僕が投げかけると、Aさんはハッとした表情になりました。
このAさんのモヤモヤは、「会社に居場所がない」というのが原因でした。
そこで、「僕も独立して10年ぐらいしたときに次のビジョンが見えなくなって元気がなかった時期があるので、今はそういう踊り場かもしれませんね」と自分の体験談を話すと、「それはどれぐらいで抜け出せましたか?」と聞かれました。
「僕の場合は、次の山が見えるまでは3年ぐらいでしたね」
すると、Aさんは「そういえば、会社に勤めてたときも、仕事ができるようになったら急にやる気がなくなって、モヤモヤしてた時期があったなあ。そのときは別の部署に異動になったら、元気になったんだけど」と、何か思い当たることがあるようでした。
この話はそこで終わり、後は雑談をして会はお開きになりました。
それから数日後、Aさんから「おかげで、元気が出てきました!」と感謝のメールが送られてきました。
ここまで読んで、「Aさんは、この問題をどう解決したの?」と思う方もいるかもしれません。
「悩みごとを解決して結論を出してないじゃないか」と感じる方もいるかもしれませんね。
そうです。
このとき僕がしたのは悩みを解決したのではなく、「思考整理」だけです。
このやりとりの最中、僕は相手の状況を聞いて、ずっと質問を投げかけていました。自分の体験談を語ったぐらいで、アドバイスらしきことを一切していません。
それでも、Aさんの気持ちはスッキリして、自分で解決策を導き出した様子です。
実際にAさんがどのようにこの問題を乗り越えたのかは、実は聞いていません。
それは僕が介入するようなことではなく、Aさんが自分で考えて何らかの行動をとれば解決できると思っています。
この話の流れで僕が「会社以外に、何か趣味でも見つけたらどうですか?」などと提案したら、おそらく「そうですね」で話は終わっていたでしょう。
何も事情を知らない僕が、話をちょっと聞いただけで解決策を示したら、表には出さなくても「そんな簡単な話じゃないんだよ」と思われていたはずです。
解決策を示さなくても、相手のイライラやモヤモヤが簡単に消え去る方法。
それが「プロの思考整理術」です。
● 人はみな、アドバイスを求めていない~僕が相手の思考整理を始めたきっかけ
皆さんの前に、悩んでいる人がいたら、どうしますか?
相手の話を親身になって聞き、「それは大変だったね」「気持ち、わかるよ」と共感する言葉を投げかけつつ、「こうしたらいいんじゃない?」とアドバイスする。相手からはお礼を言われて、いいことをした気分になるかもしれません。
でも、度重なると皆さんが疲れませんか?
しかも、本当にそれで相手の悩みを解決できるのでしょうか?
僕は今まで経営コンサルタントとして多くの経営者や従業員と接してきましたし、セミナーや養成塾を通して大勢のコンサルタントと親しくなりました。悩み相談もよくされますし、「どうしたらいいんですか?」と聞かれることも多々あります。しかし、そこで僕なりの答えを言ってしまうのは、あまり得策ではないと感じています。
たとえば、「その社員さんに対して、こんなアドバイスをしたらどうですか?」と経営者にアドバイスしたとします。その後はたいてい2つのタイプに分かれます。
1つは、その通りに実践してみる人。
これはクライアントから「うまくいった!」と喜んでもらえる場合と、「全然うまくいかなかった」と叱られるパターンに分かれます。どちらにせよ、結果は僕の責任になってしまうし、本人の解決力の向上にはなりません。それだと相手の依存度が高まり、お互いにとっていい関係を築けないでしょう。
もう1つは、アドバイスしたのに実行しない人。
それがわかったときに、「せっかくアドバイスしてあげたのに!」と、こちらがガッカリします。相手も、言われたのにやらなかったら、何となく気まずくなってしまう。そうなると、お互いの心にわだかまりができてしまいます。
結局、どちらのパターンもいい結果にはつながらないでしょう。
僕も経営コンサルタントとしての経験が浅かったころ、相手に何かアドバイスや提案をすると喜ばれると思っていた時期がありました。
ある会社で社長と良好な関係を築けたので、その会社の商品をいかに拡散するか、マーケティングプランのアイデアを練って提案したことがあります。
てっきり喜んでもらえるかと思いきや、社長からは不機嫌そうな顔で、「僕は、そういうことは和仁さんに期待してないんですよ」と一言言われました。
僕は頭が真っ白になるほどの衝撃を受けました。
その会社では、僕はドンブリ経営から抜け出すための方法を使ってお金の悩みを解決したり、ビジョンやミッションをつくるお手伝いをしていました。社長にとっての得意分野である商品開発や商品を売るためのマーケティングにまで口出しをされたくなかったのでしょ
う。
そもそも社長は自分で会社をつくり、自ら人の上に立つ立場を選んでいる一国一城の主です。人から「ああしろ、こうしろ」と言われるのを嫌がるので、それ以来、僕はアドバイスを求められない限りはしないようにしています。
これは社長に限らず、多くの人も同じだと考えています。
上司から仕事の仕方について教えてもらうのは問題なくても、「君はもうちょっと丁寧に仕事をすれば、もっとよくなるのにね」などと仕事への姿勢について触れられたとたん、「上から目線で言われた!」と心を閉ざしてしまうケースは少なくありません。上司は部下のためを思ってアドバイスしていても、部下にはそれは伝わらないのです。
この本を読んでいる皆さんも、人からアドバイスされても素直に受け止められず、複雑な気分になった経験があるのではないでしょうか。
人は基本的にアドバイスされるのが、それほど好きではないのでしょう。
僕が大勢の人から悩み相談を受けてたどり着いた答えは、「悩みの答えは、相手の中にある。しかし、それは本人には見えない盲点に隠れている」という真実です。
たとえ僕がアドバイスしたとしても、相手が自分で出した解決策でない限り、相手の心は、実はそれほどスッキリしていないんじゃないか、と感じるようになりました。
それは、悩み相談を受けている最中に、相手が「あ、こうすればいいんだ!」と答えを思いついた瞬間、表情がパアッと明るくなることからもわかります。
相手がイライラやモヤモヤに支配されているなら、それは相手自身が吹き飛ばさなくてはスッキリしないでしょう。
それなら、僕の役割は何だろうか。
それは「相手の思考整理」の案内役です。
僕はアドバイザーでも先生でもなく、モヤモヤしている相手の思考を整えてあげる案内役に徹すればいいのだと気づきました。
● 相手を変えようとしなくても思考整理だけすればいい!
相手の思考整理を皆さんに実践していただきたいのは、これができるようになれば皆さん自身が楽になるからです。
上司の立場の方は、部下を指導するためにコーチングや指導法の本を読んだり、仕組みをつくったり、達成できるような目標を考えたり、ありとあらゆることを試しているのではないでしょうか。
最近は1on1ミーティングが主流になってきているので、部下指導の時間はますます増えるばかりです。そこまでしても、部下は自分では動いてくれなかったり、思うような成果を上げてくれないかもしれません。
部下を動かそうとしなくても、成果を上げさせようとしなくても、部下が勝手に動いて成果を上げてくれたら、上司はとても楽ですよね。
それを可能にするのが、プロの思考整理術です。
たとえば、いつも80%の力で仕事に取り組んでいる部下がいるとします。もっと頑張ったらその部下は120%の仕事ができるのに、そこそこの仕事しかしないから、上司はもどかしい。
そんなとき、上司はどうするでしょうか。
多くの上司は、「君ならもっとできるはずだよ」と何とかモチベーションを上げようとするでしょう。あるいは、「仕事というものはね」と精神論を語って聞かせたり、「今のままじゃ、昇給できないよ?」と半ば脅しのようなことを言ってしまったり。
いずれにせよ、懸命に相手を変えようとするのではないでしょうか。
これは大変です。
自分自身を変えるのも難しいのですから、他人を変えるのはもっと難しい。いくら説得や指導をしても相手が変わってくれなかったら、期待していた分、落胆する度合いも大きくなります。
相手を変えようとしなくても、思考整理をすれば相手は自然と考え方が変わります。
80%の力でしか取り組んでいない部下に対して、やみくもに「頑張れ」「全力を出せ」と言っても心には響きません。
「今の仕事の充実度はどれぐらい?」
「今までで最高の充実度は何%ぐらい?」
と聞いてみると、相手も自分の仕事に自然と向き合うように変わっていきます。
思考整理をすると、今まで見えていなかった問題点が見えたり、自分が本当は何をしたかったのかに気づけます。それに気づければ、自分で解決策を考えて、自分で動き出します。
だから、相手を説得しなくても、指導しなくてもOK。
相手のこんがらがっている思考を解きほぐして交通整理するだけでいいので、好き嫌いの感情を挟まずに済みます。
相手の顔色をうかがいながら、相手を不快にさせないように言葉を選ぶ――。そんな気遣いもいりません。思考整理は誰も傷つけず、誰も不快にさせたりすることのない、すべての人を幸せにできるコミュニケーションです。
さらに、相手に共感しなくても、相手から共感してもらえるメリットもあります。
相手の話を「つまり山田さんが今置かれている状況ってこういう風に聞こえたんですけど、これで合ってます?」とまとめただけで、「そうそう、そうなんですよ!」と相手は共感します。
アドバイスではなく、「こういうことですよね」と、その人の置かれている状況を確認する意味合いを込めて聞くだけで、相手は共感してもらえたと感じる。
そうなると、その話の続きを「この人にもっと聞いてもらいたい!」となるし、「この人は、私のことをわかってくれる!」と心を開いてくれる。それも「共感」の1つです。
相手の話のすべてに同意するのは難しいので、心から共感しようとすると、自分がしんどくなります。かといって、「わかるよ、その気持ち」と表面だけで共感を示すのも、なんだか後ろめたくありませんか?
思考整理をするときはムリに共感する必要がないので、「気疲れフリー」でいられるのです。
● 思考整理でオンラインでも気疲れを減らせる
プロの思考整理術のいいところは、オンラインでも使えるところ。
僕もクライアントや養成塾の塾生などとオンラインでやりとりするときに、思考整理をしています。
コロナショックが起きてから、多くの企業がリモートワークを導入しました。
毎日会社に通わなくてもいい、満員電車に乗らなくていい、自分のペースで仕事をできるなど、メリットもたくさんありますが、オンラインならではの悩みも出てきました。
オンラインだと自分の声がちゃんと相手に届いているのかわかりづらいし、話に入るタイミングがうまくつかめず、相手と発言がかぶってしまったりします。
気軽に雑談しづらいし、相手のリアクションがわかりにくくて、話も弾みづらい。対面で会話をするよりも数倍気を遣うので、Zoom会議が終わったらグッタリするという話をよく聞きます。
その気疲れも思考整理で減らせます。
思考整理は「自分が何を話すか」ではなく、「相手に何を話してもらうか」が大事。
したがって、相手に心を開いて話してもらえれば、自分がうまく話そうと考えなくて済みます。
1対1でのやりとりは、対面だと相手が話しやすい場を選ぶ必要がありますが、オンラインは相手も自分も周りに人のいない場所を選べばいいので、話しやすいというメリットがあります。
自宅でやりとりするなら、よりリラックスできるので、普段できないようなプライベートな会話や深刻な相談もしやすいでしょう。
そういう場面で相手の思考整理をできれば、より相手に「この人にまた話を聞いてもらいたい」と心を開いてもらえます。リアルな場以上に効果があるかもしれません。
最近は、初めて会う人との打ち合わせや面談もオンラインでする機会が増えてきました。
これは人とコミュニケーションを取るのが苦手な人にとってはチャンスです。
リアルな場だと相手を和ませるために雑談をしたり、ずっと相手の顔を見ながら話さなくてはらないので緊張しますが、オンラインは明確な目的があってお互いにアクセスしています。
すぐに本題に入ってもOK。資料を画面に映しながら話をすれば、相手の顔をじっと見ている必要もありません。
たとえば、保険の営業で初対面のお客様にアプローチする場合でも、
「保険についてお困りのことはありませんか?」
「予算はどれぐらいなら大丈夫ですか?」
などの定番の質問だけではなく、
「今は必要ないと思われるのはなぜなんでしょう」
「10年後にご家族とどのような暮らしを送っていたいですか?」
とちょっと踏み込んだ質問をできれば、相手の思考はどんどん整理されていきます。
相手と直に接しているときは聞きづらいような話題でも、画面越しだから聞き出せることもあるでしょう。コミュニケーションが苦手な方は、オンラインでの思考整理をぜひ試してみてください。
● 仕事でも、プライベートでも!相手の心を整えれば、みんなが自分の味方になる
プロの思考整理術は、仕事からプライベートまで幅広く活躍する技術です。どんな場面でも、相手の思考整理ができれば、相手から信頼され、自分の味方になってくれるでしょう。
思考整理をすると、次のようなメリットがあります。
・相手に「また話したい」と思ってもらえる
思考整理は取引先や顧客にも使えます。
とはいえ、相手から契約を取るために思考整理をするというより、相手のお困りごと(本人にとって重要な、真の悩みのこと)を明らかにして、その解決のシナリオを見つけ出すために使ってほしいです。
その結果として、信頼関係が築かれるのです。
顧客が「会社の業績が伸びない」と悩んでいるなら、「新しい事業を考えてみたらいいんじゃないですか?」とアドバイスをするのではなく、「いつごろからそう感じるんですか?」と状況を正しく把握する方向に話を進めましょう。
実は会社の業績について悩んでいるのではなく、後継者が育たないことに悩んでいるのだと、自分で気づくかもしれません。
置かれている状況を俯瞰して正しくとらえることで、自分の真のお困りごとが明らかになります。正しい状況把握が、ざわついていた感情を整えてくれるのです。
そうなれば、「話しているだけで悩みが晴れた。またこの人と話したい」と心を開いてもらえるでしょう。
・部下が自分の頭で考えて動くようになる
有能な上司になろうとして、部下に動いてもらうためにリーダーシップについて習ったり、チーム運営の仕方を学んだり、仕事を任せるための理由を伝えて仕事が終わったらフィードバックをして……と、ありとあらゆることを試している方もいるのではないでしょうか。
そういった方法も、もちろん効果はありますが、上司の負担が大きすぎて長く続かず、行き詰まってしまいがちです。
しかも、そこまでして部下が動いてくれなかったら、上司は「指導力不足」の烙印を押されてしまうのではないでしょうか。
これでは、上司はたまったものではありません。
山本五十六の名言がありますよね。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」
これができれば立派ですが、大勢の部下がいたら一人ひとりにここまでするのは大変です。それに、今の時代はここまでしても動かないこともあります。
なぜなら、人は自分で納得しない限り、なかなか行動には移せないからです。
とくに、今の若い世代はマジメで熱心に仕事に取り組みますが、「なぜ、この仕事を自
分がやらなきゃいけないんだろう?」と思うと、そのモヤモヤが解消されるまで動けない
タイプもいます。
そこで、山本五十六方式から抜け出して、新しい任せ方をしてみませんか?
僕なら「話させて、相手の思考を整理して、気づかせなければ、人は動かじ」です。
相手の思考整理をするやり方なら、部下を動かそうとしなくても、勝手に動いてくれるようになります。
自分で動いてもらうために「君に任せるよ」と仕事をお願いすると、部下はプレッシャーを感じてかえって何もできなくなるかもしれません。
それよりは、「その仕事を進めるうえでの問題点や気がかりはあるかな?」「その仕事ができたら、どんな自分になれる?」と思考整理をして、自分でやる気になってもらえばエンジンがかかって動いてくれます。
・好きな相手に「もっと一緒にいたい」と思ってもらえる
僕は残念ながら妻と知り合ったときにプロの思考整理術をまだ知らなかったのですが、知っていたらもっとドラマチックな恋愛ができたかもしれません(笑)。
それはともかく、男性よりも女性のほうが、悩みを聞いてもらいたいと思う傾向があるようです。
ただ、男性がやってしまいがちなのは、「それはこうしたほうがいいよ」とアドバイスをしてしまうこと。これは多くの女性は求めていません。
女性はアドバイスよりも、「ただ話を聞いてほしいだけ」だったり、共感を求めている場合がい。なので、下手にアドバイスすると、かえってテンションが下がっていきます。
僕も妻から、「アドバイスを求めているわけじゃない」と叱られたことが、何度もあります……。
だから女性から悩み相談をされたら、思考整理をしてあげるのが一番喜ばれる気がします。アドバイスをしなくても、「私、こうすればいいんだ!」と自分で解決策を見つけてスッキリするので、「話を聞いてくれてありがとう」と感謝されます。
そうなれば心を開いて、「もっと話を聞いてもらいたい」「一緒にいたい」と愛情が深まっていくでしょう。
女性が男性に対して思考整理をするのも、効き目があります。
男性の場合はめったに悩みごとを打ち明けないかもしれませんが、「元気がないけれど、どうしたの?」「仕事で何かあったの?」と「話を聞くよ」という姿勢を示すと、話しだす可能性もあります。多くの男性はプライドが高いので、アドバイスよりも思考整理のほうがきっと喜ばれます。
共感を示していなくても「自分のことをわかってくれている」と受け取って、心を開いてくれる可能性大です。
・家族の悩みを解決できる
思考整理は家族のお困りごとにも役立ちます。
たとえば家事の分担を巡って夫婦で喧嘩するのは、よく聞く話です。お互いの主張ばかりしていたら、永遠に問題は解決できませんね。
そういうときに、「今の僕のことで何か気になっていることある? 僕が気づいていなかったら、改めたいので」と聞いてみると、「自分のことばっかりで、休みの日もゴルフに行くし、飲みに行くし、全然話を聞いてくれないじゃない。私もパートで働いてるのに、家事は全部私がしなきゃいけないなんて、おかしくない?」と不満をぶつけられるでしょう。
そこで反論しようとせずに、「そんなに不満を抱えてたんだね。気づかなくてゴメン!じゃあ、どうなったら理想的だと思う?」と受け止めてみます。
すると、「理想的には、休みにゴルフばかり行くんじゃなくて、ちょっとは家事をやろうとしてほしい。家事の全部とは言わないけど、少しは自分が担当してくれるぐらいの気遣いがあってほしい」と、妥協案が出やすくなるでしょう。
子供が学校のことで悩んでいるなら、それこそ思考整理の出番です。
とくに思春期の子供はさまざまな悩みを抱えていますし、親にはなかなか心を開いてくれないものです。そんなときでも、プロの思考整理術を使えば悩みでいっぱいいっぱいになっている状況が解消され、心を開いてくれるでしょう。
思考整理を上手に行えば、家族の対立が減って、家族仲は円満に向かいます。
・友人や後輩から頼りにされる
昔からの友人や知人、趣味のサークルやご近所との交流など、プライベートでの付き合いでも思考整理を活用してみましょう。
たとえば、サークルで昔からのメンバーと新しく入ったメンバーとで対立し、分裂するような話の流れになったとき。
「どんな条件が整えば、このサークルをみんなで続けられるかな?」と投げかけて、みんなに意見を出してもらえば、思考整理をしつつクールダウンさせることができます。意見を出し合っているうちに、「やっぱり、みんなでやっていこう」となれば、雨降って地固まるで結束感が生まれるかもしれません。
意見が出尽くしても、やはり溝は埋められないなら、分裂するのもよし。それでも、バチバチ火花を散らしたまま別れるのでなければ、前向きなリスタートを切れるでしょう。
こういう場でみんなの思考整理をすれば、「みんなでやっていこう!」と自分を鼓舞して団結させなくても、自然と「この人は頼れるな」と思ってもらえます。
いかがでしょうか。
プロの思考整理術は、さまざまな場面で驚くぐらいの効果を発揮します。
第2章から具体的な方法を紹介しますが、まずは相手の思考整理をする前に知っておいたほうがいいことについて、次の第1章でお話ししていきます。
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<第1章>相手の思考整理をする前に知っておきたいこと
● 思考整理では2つのことを整理できる
プロの思考整理術では、2つのことを同時に整理できます。
「1.状況(事実)」を整理することで、「2.感情」が整います。
僕のプライベートな例がそのことを説明するのにもってこいなので、ここで紹介します。
以前、僕の母が、「いつも利用している薬局で嫌な思いをした」と電話をかけてきたことがありました。薬代は2200円だと薬剤師さんに言われて1万円を払ったところ、おつりは2800円しか返ってこなかったのだとか。
そこで「1万円払ったんだから、おつりが5000円足りないですよ」と言うと、「いいえ、これで合ってます」ときっぱりと言われたそうです。
何度も「おつりが足りない」「これで合ってる」と押し問答が続き、「それならレジを見てください。1万円札入ってませんか?」と強く言うと、相手も「入っている」と認めて、ようやく渋々と5000円札を渡してくれました。
それでも相手は勘違いだと謝ることもなく、「納得いかない」という態度だったので、母は気分が悪いまま家に戻ってきました。
すると薬局から電話がかかってきたので、てっきりお詫びの連絡かと思いきや、「あれから計算したらやっぱり5000円がどうしても合わないんです」と言われたそうです。
そこからはまた押し問答の繰り返しで埒らちが明かないので、母は強引に電話を切ったそう
です。その勢いのまま僕に電話をしてきて、「今、こんなひどいことがあった!」と興奮しながら報告してくれました。
この場合、おつりは全額返してもらっているので、問題そのものは解決しています。言いがかりをつけられたことに対して、感情面で納得していないのです。
そこで僕は事実関係を整理するために、いくつか質問してみました。
僕「お財布にはいくら入ってたの?」
母「買い物に出る直前に1万円札を入れたから、間違いない」
僕「おつりが足りないってわかったとき、お財布にしまってから気づいたの?」
母「ううん。おつりをトレーから取るときに足りないって気づいた」
僕「じゃあ、母さんがお金を余分に受け取っていないことは、相手も見てるんだね」
母「ちゃんと見てたかどうかはわからないけど」
僕「母さんは1万円札を渡して、それは向こうも認めてるんだよね」
母「うん、認めてた」
ここまでしたのは状況整理です。僕はその場にいなかったので、どんなやりとりがあったのかを確認するために聞いてみました。母も僕の質問に答えるうちに、その場の状況を冷静に振り返れるようになっていきました。
母「そういえば、前もあの人には失礼なことを言われたのよ」
僕「そうなんだ。そんなことがあったのに、どうしてその薬局を使ってるの?」
母「病院から一番近いから使ってただけで。もうあの薬局は使わなければいいのかな」
僕 「そうだね。もっといい薬局に出会えるかもしれないし、おさらばするタイミングなのかもね」
母「そうね、そうするわ」
母は最後にはすっきりした様子で電話を切りました。
「病院から近い」というだけの理由で、不満を押し殺して通っていた薬局とおさらばして、もっと自分にふさわしい薬局を見つけるきっかけを、その店員は与えてくれたのです。
この場合、事実に基づいて状況を整理しているうちに、感情が整理されていったのでしょう。もし、思考整理をしないで、こちらからいきなり「そんな薬局、替えたら?」と結論を言ったら、「そうは言っても、もう1年ぐらい通ってるんだから」と反論し、納得しなかったかもしれません。
人は感情が整っていないと、正論を言われても反論したくなるものです。
怒りに支配されているときはたいてい、状況と感情が入り乱れています。
たとえば、「あの薬局の人は、私が嘘をついていると疑っていた」と、母が言っても、それは自分でそう思っているだけで事実とは違う可能性があります。だから状況と感情を切り分けて、それぞれを整理するのがポイントです。
人は、他人から言われたことは素直に受け止められなくても、自分で決めたことには素直に従います。だから、自分で答えを見つけるように導くのが一番です。母の例は日常の些細な話ですが、身内のこういう小さなトラブルでも、思考整理の練習ができます。
部下が取引先とトラブルになった場合、「すみません。先方が怒ってるから、もう取引は続けられないと思います」と結論ありきで報告するのは、よくある話です。
こういう場面で「君に何か落ち度があったんじゃないか?」と責めるような発言をしたり、「とにかく謝って許してもらってきなさい」と背中を押しても、何の解決にもなりません。
部下が「もう取引できない」と感情的になっているなら、それをクールダウンするのが第一歩です。
「まずは何の案件で叱られたのか教えてもらえるかな」
「先方から何て言われたのかな」
「それに対して、山田君はどう返事したのかな」
「どの時点で話に行き違いがあったんだと思う?」
「先方は担当者だけ? 他にも関わっている人はいる?」
このように状況を事実に基づき整理していきます。そのうえで、
「山田君は今、相手をどう思っている?」
「それは、なぜ?」
「先方は、こっちをどう思っているかな?」
「先方にとっても、うちにとっても、最善の解決策は何だろうね?」
という具合に、感情も言語化していきます。アドバイスや説得をしなくても、やがて部下自身がどうすればいいのか答えを見つけるでしょう。
結果的に、取引先との契約を打ち切られることになるかもしれません。それでも、部下が自分の頭で考えて「もう一度、先方と話し合ってみます」「僕に至らないところがあったので、先方に謝ります」と行動に移せれば、大いなる前進と言えるのではないでしょうか。
● 思考整理で使う質問には2種類ある
思考整理のときに使う質問には、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンがあります。オープンクエスチョンは相手に自由に答えてもらうための質問で、クローズドクエスチョンは答えが1回でYesかNoで終わる質問です。
たとえばどの職場にもいる問題社員に対して、最初はゆるやかなクローズドクエスチョンをしてみます。
「最近、何か困ったことがあるかな?」
これに対してYesと答えたならオープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを混
ぜながら、
「どんなことなの?」
「何か対策を考えている?」
「それが最善だと考えてるんだね」
と聞いていくと、相手の心は整っていき、自分なりの答えを導き出すでしょう。
Noと答えた場合は、
「そっか、順調なんだね」
「今の充実度は何%ぐらい?」
とあまり深く突っ込まずに、さらっと聞いてみます。相手の心にちょっとでもさざ波が起こせたら、それだけでも考えるきっかけを与えられたので十分です。
どちらの場合でも、「仕事に対する考え方が甘いんじゃない?」などと自分の意見は言いません。それは相手にとってアドバイスではなく、自分を否定されているととらえられてしまうからです。
どんな答えが飛び出しても反射的に否定することなく、「そういう考えもあるもんなんだな」といったん受け止めます。
● 「何をしゃべるか、聞くか」の前に、場づくりを優先する
序章でご紹介したように、プロの思考整理術は4つのステップに沿って進めるだけの、誰にでもできるシンプルな方法です。
思考整理をする前に、いくつかの準備をしておくと、よりスムーズに進めることができます。
その準備の1つが、「安心安全ポジティブな場づくり」です。
相手が自分に対して警戒心を抱いていたら、思考整理をするのはほぼ不可能です。相手に「この人になら、自分の本音を伝えてもいい」と思ってもらえるような雰囲気をつくるために、安心安全ポジティブ(僕は「AAP」と呼んでいます)な場づくりが役立ちます。
たとえば、僕はコンサルタントとして、多くの会社の会議に立ち会う機会があります。
ある会社の会議で、社長だけがしゃべって社員がシーンとしている場面を見かけました。
社長がちょっと厳しいタイプなので、「余計なことを言ったら批判されるんじゃないかな、否定されるんじゃないかな」と社員が委縮している様子が伝わってきました。
そういう雰囲気の場から、良い意見やポジティブなアイデアが生まれそうな感じがするでしょうか?
相手の思考整理をするときも同じで、自分が無表情で腕を組んで相手の話を聞いていたら威圧感を与えてしまい、相手は何も話さなくなります。だからこそ、自分の態度が相手や周囲にどんな影響を与えているか、自覚的でありたいところです。
ただ、思考整理する場面は突然訪れることもあります。
自分がデスクワークに集中しているときに、部下から「A社の件で、ちょっと相談があるんですけど」と声をかけられたら、皆さんはどうしますか?
自分の手を止めることもなく、部下のほうを見ることもなく、「何? どうしたの?」と聞かれたら、部下が話しづらいのは言うまでもありません。
相手に心を開いてもらうには、ここは安心安全ポジティブな場であるのだと伝わるような場づくりが必要です。
そこで、安心安全ポジティブな場づくりをするための、2大ポイントをお伝えします。
「表情」と「言葉選び」です。
1.表情
相手が安心安全ポジティブだと感じる表情は、やはり笑顔です。
コンサルタントとして場づくりの重要性を実感している僕は、どんな笑顔が「自然な感じなのか」「安心安全ポジティブな場をつくるのか」を鏡やスマホの写真でチェックしてきました。
有名なメラビアンの法則によると、人物の第一印象は初めて会ったときの3〜5秒で決まり、その情報のうち、視覚から得ているのは55% 、耳から得るのは38%、話の内容から得る情報は7%だそうです。
圧倒的に視覚から情報を得ているので、眉間にしわを寄せていたり、口角が下がっていないか、チェックしましょう。
今は、Zoomなどのオンラインで会議をする機会も増えています。画面に映る自分を見れば、リアルタイムで自分の表情をチェックできて便利です。
2.言葉選び
どんな言葉を選べば、その場の空気が安心安全ポジティブになると思いますか?
それはずばり、「肯定語」です。
「A社の件で、ちょっと相談があるんですけど」と言われたとき、「いいよ、どうしたの?」と返したら、相手は続きを話したいと思えます。
しかし、不愛想に「えっ、何!」と返されたら、不信感を抱かれているような気がして、話しづらくなります。ちょっとした違いで、人は敏感に空気を感じ取るものなのです。
だから、思考整理をしている間も、「おもしろいんじゃない?」「いいね」「続きを聞かせて」「なるほどね」という感じで、肯定語で会話を進めると相手は心を開きやすくなります。
反対に、「でもさ、それって」「ムリじゃない?」「難しいんじゃない?」など、否定語を使ったら、相手はどんどん心を閉じていきます。
表情と言葉選びの2つを意識するだけでも安心安全ポジティブな場になりますが、座り方や話す場所も工夫すると、さらにうまくいきます。
3.座る位置・立つ位置
思考整理をする際に、相手と正面に向かい合って座ると、相手は圧を感じるかもしれません。だから、僕は丸いテーブルなら斜めに座り、四角形のテーブルだったら、相手との位置が90度になるように座っています。
隣に座ると一番相手の心は開きやすいですが、四角形の四人テーブルでいきなり相手の隣に座ったら、ちょっと変な感じになりますよね。
その場合、カフェやバーのカウンターで話すようなシチュエーションであれば、隣に座っても不自然ではないでしょう。あるいは、ノートパソコンを二人で見ながら話をする形にすると、必然性が生まれるので、自然に隣に座れます。
立って話を聞く場合も、基本的には同じです。実は、座る位置や立つ位置は、相手との関係性を無意識につくる効果もあります。
正面に向かい合っていると対立するような構図になるので、意識していなくても、相手をマウンティングしようという心理が働きやすくなります。相手と対等な立場になるには、横に並ぶのが一番理想的です。
4、場所・雰囲気
理想的なのは、一対一で静かに話せる場所です。とくに深刻な話の場合は、周りに大勢の人がいたら話しづらいのは言うまでもありません。会社の会議室や近くの公園、落ち着いて話せるカフェなど、安心して話せるような場所を選びましょう。
一緒にランチをしているときや帰宅途中の電車の中など、いきなり思考整理する場面が訪れたら、「このままここで話しても大丈夫? 場所を変える?」と相手に確認すれば、万全です。
このような点に気をつけるだけで安心安全ポジティブな場はつくれます。
できれば普段から安心安全ポジティブな場づくりをしておくと、いつでもどこでも思考整理できるようになります。
普段の関係があまり良好でない人に対して、相手も何か相談しようとは思いませんよね。
威圧的な上司から、「あなたの成績で気になることがあるから、今度面談しようか」と言われたら、きっと心の中で悲鳴を上げるでしょう。
「何を言われるんだろう。成績が悪いから、怒られるかもしれない」とビクビクしながら面談に臨むことになります。
だから、入り口が大事です。
上司「今、3か月くらい営業やってみて、自分的には調子はどう?」
部下「うーん、あんまりよくないですね」
上司 「そうなんだね。うまくいかない、よくないと思っている理由はいろいろあると思うんだけど、よかったら今度、作戦会議をしない? 僕が経験したことのなかで、参考になる事例もあるかもしれない。頭の整理をする時間をとれればいいかなと思うんだけど、どうかな?」
部下「それならお願いします」
ここでのポイントは「頭の整理をする時間」という言葉選びをしている点です。
あえて「頭の整理をする時間」を選んだのは、「あなたにとっていい方法を教えてあげるよ」と言われたら、上から目線を感じて、相手は心を開きづらくなるからです。
ところが、「頭の整理」なら、上司がアドバイスするとも言ってないので、ざっくばらんに話をする場という印象を与えられます。
普段からこういうやりとりをしていたら、「この人には何を話しても大丈夫」と心を開いてもらえます。そうすれば、結果的に相手は自分の頭で考えて動いてくれるかもしれません。
思考整理は、安心安全ポジティブな場づくりにすべてがかかっていると言っても言い過ぎではないでしょう。
● ムダなことなど1つもない!「積み石&捨て石効果」で何でも話せる環境をつくる
以前、こんなことがありました。
ある製造業の会社で会議をしていたときのこと。その会社の社長がとても強こわ面もてな方で、社員は遠慮してモノを言えない様子でした。そのため、会議はいつも社長が一方的にしゃべっておしまいになっていました。
これでは、社員の創造性は発揮されないし、会議も生産的なものになりません。
そこで、僕はコンサルタントとして、社長に提案をしました。
「次回のミーティング、僕に司会をさせてもらえませんか。そして、社長は後ろの席で見守っていていただきたいのです」と。
社長の了承を得て、翌月は僕が司会役を担って会議をしました。テーマは「業務改善について」です。
はじめの数分間、場を和ませる話をしたうえで、僕は約20人のメンバーに「普段、みなさんが現場で仕事をしていて、もっと生産性が上がったり、お客さんに喜ばれるために、どんなことができそうですか?」と問いかけました。
最初は誰も発言しません。後ろで社長が見守っているので、「後で何か言われたらイヤだな」とためらっていたのかもしれません。
それは想定内だったので、「社長が後ろで腕組んで見てると、話しづらいですよね」などと冗談を言って場を和ませていると、ある人が口火を切って意見を言ってくれました。
それは誰でも思いつくような意見だったかもしれません。だけど勇気を出して、意見を言ったこと自体が尊いのです。
すると、それを聞いた別の人が「今の意見を聞いて思いついたのですが……」と発言しました。その2人目の意見を聞いて3人目が発言し、さらに4人目が手を挙げて発言をしていく。
このように、前の人の意見が誘い水となって、別の意見が出てくる現象を、〝積み石効果〟と僕は呼んでいます。
平らな石が、どんどん上に積み重なっていくように、前の人の意見がヒントになって意見が積み上がっていく現象が積み石効果です。
そのときは、20番目の意見がものすごくいいアイデアでした。そのアイデアが採用され、「来月までにやってみよう」という話になりました。
社長は、みんながどんどん意見を言う様子を、驚いて見ていました。
「自分の頭で考えない社員ばっかりだと思っていたけれど、自分が話しづらそうな雰囲気を作っていただけなんだな」と気づいた様子です。
そして、20番目のアイデアを実行してみたら、お客さんからの評判がよくなり、売上アップにつながりました。
さて、ここで問題です。
20番目の人の意見が成果につながったわけですが、これは誰の手柄でしょうか?
20番目の人?
最初に発言した人?
いいえ、「そこにいた全員」の手柄です。
20番目の意見が出たのは、
19番目の人がいいトスをあげたおかげですし、
19番目の人は18 番目の意見があったから積み重ねられたのです。
そうしてさかのぼっていくと、最初に勇気を出して発言した人がいたから石が積み重なっていったのであり、20人の中の誰かが欠けていたら、最後のアイデアにたどり着いていない可能性もあります。
同時に、後ろでしゃべりたいのをグッとこらえて黙って見守っていてくれた社長のお陰でもあります。そして、手前味噌ですが、その会議で安心安全ポジティブな場をつくり、進行役を担当した司会者(このときは僕)も、その成果に貢献していると言っていいでしょう。
その場にいる全員のチームプレイで成果を導けたのだと僕は考えています。
もう1つ、積み石効果のほかに、〝捨て石効果〟もあります。
ミーティングにおいては、石が上に積み上がっていくばかりではなく、時には的外れなことを言う人もいます。
僕は、この意見にも重要な意味があると考えます。
たとえば、自動車メーカーの打ち合わせで、新車の色を何色がいいかとみんなで話し合ったとします。
1番目の人は「白」、2番目の人は「青」とアイデアを出していきます。そのうち、「七色」なんて意見が出るかもしれません。
「さすがに七色はムリだけど、雲柄の車があると可愛いかもね」と思いがけないアイデアが出たら、それは「七色」というアイデアが出たから引き出せたのです。これが捨て石効果です。
そう考えると、安心安全ポジティブな場での会話において、「何1つムダな意見などない」と言えます。思考整理をするときも、積み石効果と捨て石効果を使いながら進めていくと、相手の話を引き出せます。
相手がせっかく出した答えに対して、「それはどうかな?」と否定する発言をしたら、とたんに石は崩れていきます。
「それはいいね、他にはどんなアイデアがある?」と石を積み重ねていくと、最後に素晴らしいゴールに導けるでしょう。
もし自分が「それって、Aってことかな?」と聞いた質問が的外れだったとしても、相手は「そうではなく、Bってことです」と言い直してくれます。それもAという捨て石が引き出した答えです。
なお、積み石と捨て石をするためにも、安心安全ポジティブな場づくりは不可欠です。
話しやすい雰囲気があるから相手は石を積んでくれるのだと、意識しておきましょう。
● 誰でも「お困りごとトップ3」がある
心理学者のアルフレッド・アドラーは、人生の悩みはすべて対人関係の悩みであり、それは「仕事、交友、愛情」の3つの課題に分類できると語っています。
僕は、経営コンサルタントの経験から、とくに成長意欲が高い社員数30人以下の中小企業の社長の「お困りごとトップ3」は、次の3つになると考えています。
①会社のお金の流れが漠然としていて先の見通しが立たないことによるストレス
②社員との立場の違いが生む「危機感のズレ」によるストレス
③次のワクワクするビジョンが見えないストレス
一番目はお金の悩みですが、これはアドラーが言うところの「仕事」の課題に当てはまるでしょう。二番目は交友の課題、三番目も仕事の課題となります。
皆さんの悩みも、だいたいアドラーの3つの課題に当てはまるのではないでしょうか。
僕は経営コンサルタントとして独立する前、中小企業の経営全般のコンサルティングをする会社に属していました。その会社にいた5年間に多くの中小企業の経営者と出会って話を聞くうちに、経営者の悩みはこの3つに集約されるな、と気づきました。
もちろん、実際にはその3つ以外の悩みもたくさんあって、夜も眠れないぐらいの悩みもあれば、すぐに解決できる悩みもあります。
夜も眠れないぐらい、頭の上のほうにある悩みに僕は「お困りごとトップ3」と名前をつけました。普段のコンサルティングでは、その3つにアプローチして解決するお手伝いをしています。
実は、相手が誰であっても、思考整理をするときにお困りごとトップ3を知っておくと、とても便利です。
序章で友人から紹介されたAさんのエピソードをご紹介しましたが、あのときも経営者のお困りごとトップ3を知っていたから、モヤモヤの原因を探りながらも「これが悩みの原因かな」と見当をつけられました。
見当をつけられると、「センターピン」を見つけやすくなります。
センターピンとは、ボウリングで一番中央に立っているピンのこと。そのピンを狙ってボールを投げればすべてのピンを倒してストライクを出す確率が高くなります。
人の悩みも同じで、センターピンを狙って当てられたら、正しい解決策が見えてきます。
ところが、多くの人はセンターピンを自分で見つけられず、後ろに並んでいるピンを悩みだと思っているので、なかなか解決できないのです。
たとえば、「転職したい」と悩んでいる友人がいたとします。
理由を尋ねたときに、「職場の雰囲気が自分に合わない」「給料が安い」と理由を挙げていても、それを鵜呑みにして、それらの解決策を言うのではなく、まずは相手の状況と感情を整理してあげます。
思考整理して、たとえばセンターピンが「自分のやりたい仕事をやらせてもらえない」ことなら、解決策を模索します。
たとえば、今の会社で上司に相談して、自分のやりたい仕事を任せてもらえるチャンスを得るのも1つ。
また、目先にとらわれずに、時間軸を3年くらいにグーンと引き延ばすと、もしかすると、今の仕事が将来の先行投資につながっていると気づいて、モチベーションが湧いてくるかもしれません。かつて、僕が勤務していた頃、コンサルタントの仕事がしたいのに、営業の仕事に配属されたときのように。
もし、転職するにしても、何を基準に会社を選べばいいのかが変わってきます。
思考整理はそのセンターピンを見つけるための方法です。
そして、相手のお困りごとトップ3を知っておくと、センターピンに狙いを定めやすくなります。
お困りごとトップ3は、職業によっても業種によっても、肩書や年齢によっても変わってきます。
自分なりに「この職業の人のお困りごとはこれかな」「この年齢だと、こういうお困りごとがありそうだな」と考えてみるのをおススメします。これに絶対的な正解はないので、見当をつけるだけでも十分です。
ただ、できることならお困りごとトップ3は、想像するだけではなく相手に直接聞いてみるのがベストです。
ただし、尋ね方は工夫が必要。相手に「あなたのお困りごとトップ3は○○ですか?」とストレートに聞くと、「勝手に決めつけないで」と思われてしまうかもしれません。
コツとしては、
「こういう場面での悩みは、典型的には3パターンあるみたいなのですが」
「私の周りにいる成長意欲の高い中小企業の社長は、みんな3つのパターンで悩んでます」
と示すと、受け止めやすくなります。
その3パターンは自分の今までの経験則をもとにつくっても、本やネットなどで調べてつくってもいいでしょう。積み石か捨て石にするための最初の石なので、お困りごとの正解である必要はありません。
ただし、思考整理をしてみると、「仕事のことで悩んでいるのかと思ったらプライベートの悩みだった」という場合もあります。
どのような答えが飛び出してくるのかは実際にやってみないとわからないので、「3つのうちのどれかだ」と決めつけずに、柔軟に対応すると、より深いレベルで話を引き出せます。
● 仮説を立てながら聞く
思考整理を始めたばかりの頃は、相手に直接「今、気がかりなことや困っていることはありますか?」と聞くのもアリです。
僕も最初から経営者のお困りごとトップ3をわかっていたわけではなく、前述したように、大勢の中小企業の経営者の相談に乗っているうちに、「この3つが多いな」と気づきました。
だから、最初からわかっていなくても大丈夫。何度もやっているうちに、「この話の流れだと、こういうことで悩んでいるのかな」と見当をつけられるようになってきます。
とはいえ、何の心構えもなく相手の話を聞いたら、「それは大変だね」ぐらいのことしか返せないかもしれません。ですので、ある程度仮説を立てながら聞いていくほうが思考整理を進めやすくなります。
相手が部下や友人、自分の子供なら、どういう悩みを抱えているのか、仮説を立てやすいですよね。部下の元気がなければ、「新しい取引先との関係がうまくいってないのかな」という具合に。
仮説を立てづらいのは、今までほとんど関わったことのない職業や立場、あるいは異性が相手の場合です。
そういうときは、相手と同じような職業や立場にいる人に、「どんな悩みが多いですか?」とリサーチして、お困りごとを絞り込むのもいい方法です。
ベンチャー企業の経営者と知り合い、もう少し関係を深めたいと思ったとします。
その場合は、ベンチャー企業の経営者の集まりに出てみて、「今、どういうことで悩んでいますか?」と聞いてみる方法もあります。また、SNSやブログ、書籍で情報発信している人も多いので、そういうのを読みながら、「この立場の人はこういう悩みがあるんだな」と想像してみることもできます。
すると、「自分の勢いに社員が全然ついてきてくれない」というお困りごとが見えてくるかもしれません。
その仮説をもとに相手の思考整理をしてみて、うまくいったら「ベンチャー企業の経営者のお困りごと」が1つ定められます。その繰り返しで、いずれトップ3がそろうでしょう。
僕も経営者のお困りごとトップ3を3つそろえるまでは時間がかかりました。逆に、よく調べないまま「部下のお困りごとトップ3」「主婦のお困りごとトップ3」などを決めつけてしまうと、かえって思考整理の妨げになることもあるでしょう。
たとえば、部下のお困りごとは、上司自身が部下の立場だったころを思い出したらだいたい予測できます。けれども、今は世代ごとに育ってきた環境が大きく違うので、自分の過去と必ずしも重ね合わせられるとは限りません。
それを探るためにも、まっさらな状態で思考整理に臨むと、「こんな考えもあるんだなあ」といろいろと発見できます。何人もの部下とやりとりしているうちに、「今どきの部下のお困りごとトップ3」が定まってくると思います。
仮説を立てるときに「この人は〇〇〇(原因)によって△△△(困った状態)になっている」という一文をつくってみるのも1つの方法です。
「この人は二代目社長になったが、実績不足ゆえに周りから信頼されていないこと」によって「凹んでいる」という具合に。
その仮説が当たるか外れるかは思考整理を進めてみないとわかりませんが、何の手掛かりもないまま話を聞くよりは、自分に受け止める余裕が生まれます。
● 「伴走者になる」と決める
僕は相手の思考整理をしている最中は、「自分はテニスの壁打ちの壁だ」と思っています。壁は相手の球を跳ね返すだけで、攻撃も防御も何もしません。実際にやってみるとわかりますが、壁になるのはなかなか難しい。相手の話を聞いていると、つい「その考えはどうかなあ」「こうしたらいいんじゃない?」と自分の意見を言いたくなります。
それをグッとこらえて、相手の話を受け止めて、「どうしてそう思うの?」「他に方法はあるかな?」と返すのが「壁」の役割です。
心理学で、「ミラー効果」「ミラーリング効果」と呼ばれる効果があります。相手と同じ動作をしたり、相手と同じ言葉を繰り返すと、相手から親近感や安心感を持ってもらえる心理効果です。ミラーリングをするときは自分を捨てて相手に合わせますが、そのようなイメージで壁になるといいかもしれません。
とくに上司の立場になると、自分の利害に直結するので、部下の話を聞いているうちに、自分が望む方向にコントロールしたくなるものです。
「クライアントを怒らせて何も感じてないみたいだけど、クライアントの立場になって考えてみたらどう思う?」
このような聞き方をされたら、部下も「僕の言い方が悪かったから、いい気分にはならなかったと思います」のように、上司が求めている答えを言う、いや、言わされるでしょう。
それで上司は満足するでしょうが、部下はどうでしょうか?
ムリやり自分の非を認めさせられて、謝罪の流れに誘導されたら、心にしこりが残ります。たとえ、部下に問題があったのだとしても。
部下がクライアントを怒らせても何も感じてないなら、どこかに思いもよらないような原因があるかもしれません。それを探るためにも、自分の意見を交えずに壁打ちの壁になって相手の思考整理をしてみましょう。
ただ、「壁」というイメージが強すぎると、「それで?」「だから?」と短い質問を返すだけになってしまうかもしれないので、伴走者だとイメージするといい距離感を保てます。
相手が黙り込んでしまったら、「話しづらいかな。ちょっと休む?」とねぎらったり、「前も同じようなことでトラブルになっていなかったっけ? そのときはどうしたの?」と話の幅を広げてみたり、相手が思考整理しやすいように状況を整えていきます。
伴走者は自分が前に行っても、遅れすぎてもダメ。相手に寄り添って相手がゴールにたどり着くまで同じペースで走るのがコツです。
早すぎるタイミングで、相手に結論や解決策を提案して、気持ちよくなるのは自分だけ。
相手はモヤモヤやイライラが解消されず、スッキリした気分にはなりません。
すぐに結論や解決策を言いたくなるのは、無意識に相手にマウントをとって、相手をコントロールしようとしているのかもしれませんね。
そんなことをしなくても、思考整理をして相手をスッキリさせれば、「この人はすごい!」と思ってもらえるでしょう。
先導者や指導役でいるより、伴走者でいるほうが楽で効果的なことが多いので、そのポジションでいることを楽しんでみてほしいと思います。
そして、どうしても伝えたいメッセージがあるときは、質問で全体像を浮き彫りにした後に、「1つ思いついたことがあるのですが、言ってもいいですか?」と許可を得てからにしましょう。
それによって、相手は聞く姿勢をつくり、あなたのメッセージがいい感じで届くはずです。
● 「相手起点」で考えよう
相手の思考整理がうまくいくかどうかの境目は、「相手起点」になれるかどうかにかかっています。
相手起点とは、「相手にどのような成果をもたらすかを起点にする」という意味です。
相手の思考整理を、自分のためにしてもうまくはいきません。
「相手に自分の望んでいる通りに動いてもらいたい」と思いながら思考整理をするのは「自分起点」になっています。
最終的には自分が望んでいる答えを引き出せるかもしれません。けれども、相手は本心では望んでいないので、表面的に従うか、従うフリをして何もしないかのどちらかになる確率が高くなります。
表面的に従っていたら、すぐに元に戻るでしょう。それは相手の思考整理をしたのではなく、相手を操縦しようとして失敗したのだと考えられます。
親と子の間でよくありがちなのが、「あなたはどうしたいの?」と子供の意見を聞きつつも、「あなたはそう思うかもしれないけど、私はこう思う」と自分の意見を押しつけてしまうこと。
たとえば受験を控えた子供が塾をさぼってばかりいるとき。
「あなたはどうしたいの?」と親が聞いて、「もう塾はやめたい。家で勉強するほうがいい」と子供が答えたとします。
すると、「塾をやめたい気持ちはわかるけど、家に居ても一人で勉強できないから塾に行くことにしたんだよね?」「もうすぐ受験なのに、今やめちゃっていいの? 志望校に落ちるかもしれないんだよ?」という感じで、子供を説得しようとするのではないでしょうか。
子供のために言っているのはわかりますが、やはりこれは「受験に失敗したら困る」という親起点になっています。
ひとまず受験のことは置いておいて、子供起点で思考整理してみたら、どうなるでしょうか。
親「塾をやめたい理由は何?」
子「うーん、一人のほうが勉強に集中できるっていうか」
親「そうなんだ。日曜は家で勉強してるもんね。そのほうが勉強は進む?」
子「勉強が進むって言うか、そのほうが気が楽っていうか」
親「塾は緊張する感じ?」
子「塾だと、みんなが志望校の話ばかりしてて、ちょっとつらい」
親「受験前だからね」
子「うん、ピリピリしてるっていうか」
親 「そうなんだ。それは緊張しちゃうね。一人のほうが、周りの影響でペースを乱された
りせず、自分のペースで勉強できる感じ?」
子「うん、そんな感じ」
実際には、子供は自分の考えを的確に言葉に表せないので、もっと抽象的な表現ばかりになるかもしれません。でも、そういうときこそモヤモヤしているので、親がうまく思考整理してあげると、子供は自分なりにどうしたいのかを導き出せるでしょう。
さらに会話を続けましょう。
親 「もし、あなたにとって、そのほうが受験に成功する確率が上がるなら、それも1つの方法かもね」
と、子供の考えも選択肢の1つとして受け止めたうえで、「ほかに塾を辞めるメリットとデメリットは?」「逆に塾に通い続けるメリットとデメリットは?」を尋ねて、一緒に言語化していきます。
その結果、「やっぱりもう少しだから、頑張って塾に通う」となる場合もあれば、「家で勉強したい」となる場合も考えられます。後者になったとしても、子供が自分で選んだことなので、僕だったら温かく見守ってあげます。
一人で勉強してみてうまくいかなければ、また塾に通えばいいだけ。それも含めて、子供にはいい体験になるでしょう。
相手起点にするためには、相手がどんな状況にいて、本当は何を感じて何を考えているかを常に頭に置いておきます。
そのためにも、相手のメリットを決めつけないことも実は重要です。
「子供にとっては塾に通うほうが志望校に受かるからメリットがある」と決めつけず、子供の話を聞きながら「この子にとってのメリットは何なんだろう」と考えたほうが、相手が求めている方向にストンと着地できます。
相手起点にするためのコツは、「相手8:自分2」の割合で、相手に多く話してもらうこと。
「相手9:自分1」でもいいぐらいです。
これをするためにも、自分は伴走者だという意識が大事になります。
実際に思考整理がうまくハマると、「それって、○○ということですか?」と一言投げかけただけで、相手は「そうなんですよ! 今気づいたんですけど、自分はあの人が苦手って言うより、あの人を拒絶できない自分が嫌なんだなって気づきました。この間も……」という感じで、堰せきを切ったように話し出します。
それが、思考整理が成功した瞬間です。
思考整理がうまくいくと、相手が「今思いついたんですけど」と自分の考えを言うことがあります。
それは、積み石&捨て石でその答えを引き出したのです。
こちらが「それはこういうこと?」「それが実現すると、どんな景色が見える?」と質問を積み重ねていったから、相手がセンターピンを掘り当てられたのでしょう。
相手がセンターピンを見つけられたとき、自分が想像している以上の変化が相手に起きます。それは相手起点の思考整理だからこそ実現できます。
●「前置きトーク」で心を開きやすくする
僕がコンサルティングをする際の武器の1つが「前置きトーク」です。
これをするのとしないのとでは、クライアントが心を開くスピードが全然違います。初対面でも「この人ともっと話したい」と思ってもらえるような武器なので、ぜひ皆さんにも試してほしいと思います。
たとえば、皆さんがかかりつけ医に健康診断を受けに行ったとき。
いつもの院長先生ではなく、新米のドクターが担当になったら、「あれ? なんでいつもの先生じゃないんだろう?」と引っかかりませんか?
健康診断だから腕に差は出ないかもしれませんが、軽んじられているような気がして、その病院に対するイメージがちょっと下がってしまいます。
そこで、もし新米ドクターが最初に、
「今日は院長の田中が不在でして、代わりに私が担当することになりました。前回の健康診断の結果については田中からも聞いていて、今回、結果もしっかり田中と共有するので、ご安心ください。また、もし何か気になることがあったら、遠慮なくおっしゃってください」
と前置きをしたらどうでしょうか。さらに一歩踏み込むなら、あらかじめ院長からのフォローもあると万全です。
自分が大切にされている感じが伝わってきて、安心して任せられるでしょう。
これが前置きトークです。
僕は「先に言えば説明、後で言えば言い訳」とも考えています。
同じことを説明するのでも、順番が違うと相手の反応はまったく変わります。だから、言いづらいことほど、先に伝えておくほうが安全です。
思考整理のときも、前置きトークをするのとしないのとでは、相手の反応が違ってきます。
保険のセールスマンが顧客から保険の見直しをしたほうがいいのかどうかで迷っていて相談を受けたとします。こういう場面で、「今だったらこのプランがおススメですよ」といきなりセールストークをしたら、「いや、今すぐに変えたいとは思ってないんで」と警戒されそうです。
思考整理をするにしても、「今の保険のどういうところが気になりますか?」と直球で聞いてしまうと、やはり相手は「高額の商品を売り込まれたらどうしよう」と身構えてしまうかもしれません。
そこで使うのが前置きトークです。
「私の顧客のお困りごとは大きく分けると3つです。まずはそれをお話ししてもいいですか?
1つめは、自分には不要な保険に入っていて、余計な支出をしていることに不安を感じている人。2つめは、自分の家族構成とか自分の年齢を考えると、入っておくべき保険に入っていないのでは、と不安な人。3つめは、保険を金融商品として考えて、銀行に預ける以外に有効な運用をしたほうがいいんじゃないかという悩み。
だいたいこの3つに分かれるんですけど、鈴木さんは3つのうちどれが近いですか?
あるいは、まったく別の気がかりなことがありますか?」
「そうですね、1つめと2つめは結構近かったですね」
「そうなんですね」
「あともう1つ、4つめかなというのを今思いついたんですけど。保険料が上がったら、どうしても今入っている保険をすべては維持できないと思うんですね。どれを削って、どれを残すべきかという取捨選択の判断基準がわからないです」
「わかりました。ということは、1つめと2つめのパターン、それに4つめが今の鈴木さんの課題ということでよろしかったですか」
「はい」
このような話をしてから保険の説明に入ると、相手も素直に耳を傾けるでしょう。
部下との面談のときに、「今日は聞きづらいことも聞くかもしれないけれど、話せる範囲内で答えてくれればいいから」と前置きしておくと、相手はあらかじめ心構えができるので話しやすくなります。
こういったちょっとした前置きでも、あるのとないのとでは相手に与える印象はまったく違います。相手に心を開いてもらうきっかけにもなるので、前置きトークの効果は絶大なのです。
● 「脱★完璧主義」でいこう
「脱★完璧主義」は僕にとっての合言葉みたいなもので、クライアントや塾生が新しいことに挑戦するときによく使っています。
本書で紹介しているプロの思考整理術を完璧に暗記して、準備もすべて整えて、相手の思考整理をできそうなタイミングを見計らってやってみようと思っていたら、いつスタートできるかわかりません。「習うより慣れよ」という言葉もあるように、ざっくり理解したら、どんどん実地で試してみることをおススメします。
僕も最初から思考整理ができたわけではなく、初めはなかなかうまくいきませんでした。
相手に「それは、○○ということですか?」と要約のオウム返し(第6章参照)で尋ねたら、「いいや、そうじゃない」と訂正されたことも数えきれません。
それでも、何十回、何百回と実践するうちに、「こういう場面では、人はこういうことを考えるものだな」と共通点を見つけ出せるようになります。
共通点を見つけて、次に同じ場面になったら「こういうことですかね?」と投げかけてみると、「そうそう、そうなんですよ!」とピタリとハマるようになっていきます。
実践で使うことをためらうのなら、家族や友人に協力してもらって、この本を読みながら試してみてもいいのではないでしょうか。いきなり完璧を目指して一歩も踏み出さないくらいなら、30%の出来でもやってみたほうが確実に前進できます。
僕らが対峙しているのは「人間」です。人の考えは千差万別で常に変化します。
皆さんも「あれ、この人、この間言っていたことと違うじゃん!」という場面によく遭遇するでしょうが、そのように人の考えは変わりやすいものなのです。
だから、完璧を目指せば目指すほど遠のいていきます。
思考整理も、その場で相手が「スッキリしました!」と喜んでくれるならいいですが、相手がモヤモヤしたまま終わる場合もあります。
大きな悩みはすぐには解決できませんし、何度も思考整理するうちに、「あっ、自分の悩みはこれか」とセンターピンを掘り当てられる場合もあります。相手が泣き出したり、途中で「今はこれ以上話したくない」と打ち切られる場合もあるかもしれませんね。
だから、4つのステップという型はあっても、使ってみないことにはどうなるかはわかりません。
10人いれば10通りの思考整理があります。正解は1つだけではないので、想定外の事態になっても臨機応変に対応できるよう、走りながら考えていくのがよいでしょう。
最終的には自分と相手の関係がよくなり、お互いに楽しくなれば、それが素晴らしいゴールではないでしょうか。
次の2章で、いよいよ思考整理術の4つのステップをご紹介します。
その4つのステップの順番が変わってしまっても、ステップを抜かしてしまっても、大丈夫。この4ステップを自分流にアレンジしても、その後に続く着眼点(3章参照)や事例ストーリー(4章参照)、図解(5章参照)だけを単発で使ってみてもOKです。
この4ステップは、僕が20年以上コンサルの現場で実践して、誰でも今すぐ実践できるように極限までそぎ落とした、シンプルな方法です。よって、一定量の経験を重ねたら、皆さんがやりやすい方法に変えて、オリジナルの思考整理術を楽しんでもらえたら、僕としてもうれしい限りです。
<1章はここまで>
この続きは「プロの思考整理術」でどうぞ。
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