医院の経営情報を社員と共有する前に!ガラス張り経営をやる前に気をつけたい落とし穴とは?
2021.01.15 執筆者:和仁 達也キャッシュフロー経営全員参加経営(オープンブック・マネジメント)歯科医院着眼点
スタッフが自ら考えて、責任を持って業務にあたって
もらえるようにするには、スタッフそれぞれが、経営者意識を持って欲しい。
そのように考える経営者の方も多いでしょう。
その時に、口で言ってもなかなかその意識はつけられないから、
経営情報を社員に全て共有し、把握してもらうことで社員との
信頼関係を構築していきたい。
そのように考えて、ガラス張り経営を考えている方もいるでしょう。
しかし、安易に情報を共有してしまうことは危険を伴います。
社員が心からビジョンを共有し、一丸となって進んでいくためには、
気をつけてほしいことがあります。
この記事では「ガラス張り経営をやる前に気をつけたい落とし穴とは?」
についてお伝えしています。
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ホワイト歯科は、開業して5年、チェア3台からスタートして
今では5台、スタッフ数も常勤7人を数えるようになり、
患者数も増え、順調に業績を伸ばしてきた。
そんな中、加藤院長は、
「さらに一段上のステージに医院を引き上げるためには、
スタッフに経営者意識をつけていくことが必要なんじゃないか」
と思うようになっていた。
そこで、「ガラス張り経営」や「オープンブックマネジメント」
などの経営本で学び、ビジョンや経営数字を社員に公開
していこうと準備にとりかかった。
そんなある日、経営キャッシュフローコーチの和仁との
定例ミーティングがあり、そのことを相談した。
キャッシュフローコーチはいつも
「社員のやりがいと会社のやりがいの一致点を見つけ、
その面積を広げることが、発展する会社づくりにつながる」
と提唱していたので、きっと諸手を挙げて応援してくれる
と思っていた。ところ、意外な言葉が返ってきた。
「院長、1つ質問させてください。
ガラス張りにしたい理由は何ですか?
と言うのも、目的が曖昧なままにガラス張りにすると、
かえって混乱をもたらすことがありますからね」
一瞬戸惑いつつも、院長は答えた。
「え、目的ですか?それは、
スタッフに経営者意識をもってもらうことですよ。だって、
『経営者とスタッフの情報量のズレが危機感のズレをもたらしている』
って和仁さんもよく話しているじゃないですか?」
「情報量の不一致が危機感のズレをもたらしているのは、
たしかにその通りです。
ただ、情報を公開するには、適切な順番があります。
その順番をすっ飛ばしていきなり詳細な決算書データを
公開したら、どうなると思いますか?
いつもお話している、“お金のブロックパズル”の枠組みを
知らない人がいきなり細かな数字を見せられたら、どうなるか?
きっと、どう消化していいかがわからず、
重要な大幹に目を向けず、本筋とは違う小枝に目がいってしまい、
論点がズレるでしょう。
たとえば、
院長が伝えたいのは
『スタッフの給料は稼いだ粗利から支払われる。
だから、人件費の3倍以上の粗利を稼いで一人前だ』
ということなのに、スタッフは接待交際費に着目し、
『なぜ、こんなに接待交際費がかかっているんですか?』
と全スタッフがいるミーティングで質問され、院長が嫌な汗をかく。
そんな可能性もあります。
その意味で、何をどの順番で伝えていくか、イメージはありますか?」
加藤院長は、思わず言葉につまった。
「いえ、、、。単純に、情報を公開すれば、裏表がないんだ、
と信頼してくれるだろう、ぐらいに思っていました。
でも、たしかにやり方を間違えるとかえって
不満が吹き出す恐れがありそうですね」
キャッシュフローコーチはお茶一口すすってから話を続けた。
「はい、実はそこが落とし穴なんです。
経営をガラス張りにする狙いは、
『社員が経営者感覚で働く状態をつくること』
ですよね。
その鍵は、
『どう働くと、どう報われるかがわかる経営』
です。
院長が経営者感覚で働ける理由は、
医院のお金の流れを把握していて、
『どれだけ稼げばいくら儲かり、欲しい機械が買えて、
借金を返せて、理想の医療ができ、
自分の報酬を増やせるか、がわかる』から。
つまり経営の主導権を握っているからですよね。
だとしたら、スタッフに経営数字を公開する前に
やっておくべきことがあると思いませんか?」
加藤院長はしばらく考えて、口を開いた。
「医院がどうなればスタッフの給料やボーナスが増えるのか、
そこを明らかにしなきゃいけませんね。
今は、毎年2回のボーナスを基本給に基づいて
支払っているのと、給料ははじめの3年は成長に応じて
昇級があるけど、それ以降はとくに歩合があるわけでもないし」
「そうですね。今、院長がおっしゃったように、
『医院のどの数字がどうなれば、スタッフの給料や
ボーナスがどう増える可能性があるのか』
を知っておくのは、はじめの一歩として大切ですね。
それが理解されれば、
『給料やボーナスを増やしたければ、
どんな働き方をする必要があるか』
が連想体系として自分で気がつくようになるでしょう。
その結果、医院への一方的な要求モードがやわらぎ、
自分が何をすべきかにフォーカスする社員が生まれてきます。
それで、その順番としては、次のように進めるのが
スムーズだと思います。
<ステップ①>
まず医院のビジョンや理念をスタッフに伝え、
目指す姿を共有する
<ステップ②>
売上を100とした場合の、一般的な歯科医院の
お金の収支を「お金のブロックパズル」で視覚的に
レクチャーする(スタッフには同じ図を紙に描かせる)
<ステップ③>
上記②を複数回繰り返した後、売上を100とした場合の、
当院のお金の収支構造を同様にブロックパズルでレクチャーする
(一般的な医院の収支に比べて、当院の収支構造が
良いのか悪いのか、その程度はいかほどかが感覚的にわかる)
ここまでを、回数を重ねて、
白紙の紙にお金のブロックパズルを描けるようになったら、
キャッシュフロークイズを出しながら、
理解度をチェックするといいですね。
クイズは拙著「超★ドンブリ経営のすすめ」に記載してある
5つのクイズを応用するといいです。
ただ、スタッフに出す前に、先に院長がちゃんと解いてみて、
スタッフに教えられるようにしておきましょうね」
加藤院長はうなずきながらつぶやいた。
「わかりました。情報を公開する前に、
その情報をちゃんと消化できるよう、
お金教育をしておく必要があるんですね。
これは盲点でした。
次のミーティングから取り入れてみます」
【今回のレッスン】
◎ 経営をガラス張りにする狙いは、
『社員が経営者感覚で働く状態をつくること』。
その鍵は、『どう働くと、どう報われるかがわかる経営』にある。
◎ 院長が経営者感覚で働ける理由は、
医院のお金の流れを把握していて、
『どれだけ稼げばいくら儲かり、欲しい機械が買えて、
借金を返せて、理想の医療ができ、自分の報酬を増やせるか、
がわかる』から。
経営情報を全く知らないスタッフをその状態に近づけるには、
情報を公開する順番がある。その順番は、
お金知識を教育する上で必要なので、決して端折ってはいけない。
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