頼りにしていた有能な勤務医が独立開業!その前に準備しておきたい売上げ減少に対する対策とは?
2019.08.16 執筆者:和仁 達也キャッシュフロー経営歯科医院資金繰り
歯科医師は開業してこそ一人前!と言われたりもするように、長年勤務医として頼りにしていた先生でもいつかは独立開業してしまう事はあります。
院も順調に患者様に支持されて、売上げを伸ばしていた中、患者さんにも信頼されていた先生を失うという事は、同時に
最近では人手不足もあり、すぐに同等のスキルを持った人材の確保は難しくなっています。
売り上げの減少は避けて通れないでしょう。
そこで、頼りにしていた有能な勤務医が独立開業した時の収支対策をお伝えしたいと思います。
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お昼休みの院長室、加藤院長は一人で頭をかかえていた。というのも、長年頼りにしてきた勤務医の鈴木先生が8ヶ月後の独立開業を予定していると告白してきたからだ。
突然の報告に院長は戸惑いつつも、表面上は「そうか、おめでとう。応援するから頑張って」と強がるのが精一杯だった。
現状、チェア6台で1日80人の患者さんを加藤院長と鈴木先生、そして若手ドクターの木村先生の3人で診療にあたってきた。鈴木先生クラスのドクターを採用するには、これから準備をするとして、すぐに見つかるとも思えない。受け入れ態勢が整わなければ、患者数が減り、売上と利益が減ることは避けられないだろう。
「いったい、いくらの減収になるのか?」
「赤字になってしまうのだろうか?」
「そもそも資金繰りはまわるだろうか?」
「銀行に借入するとしたら、いくら必要だろうか?」
漠然とした不安が頭をよぎった加藤院長は、経営キャッシュフローコーチの和仁に電話で相談することにした。
一通りの事情を聞いたキャッシュフローコーチは、想定される状況を数値化していった。
「なるほど、現状1日80人の患者さんが来院していて、そのうち治療が65人、メンテナンスが15人の割合なのですね。
まず、メンテナンスは衛生士が対応するので、ドクターの人手不足の影響は受けないはずですから、これは維持できるでしょう。
問題は、治療で来院される65人がどこまで減るか、ですね。もし新しいドクターが見つからなかった場合、加藤院長と木村先生の2人で治療することになりますが、どのくらいの戦力ダウンになりますか?」
加藤院長はしばらく考えた上で、答えた。
「ある程度はわたしがカバーするとしても、30%減ぐらいにはなるでしょうね。つまり、現状65人が20人減の45人になることは覚悟しておく必要があると思います」
その答えを受けて、キャッシュフローコーチは話を続けた。
「なるほど。ということは、保険診療の一人当たりの患者単価が5千円として、5千円×20人で1日あたり10万円、1ヶ月では220万円の売上ダウンになりそうですね。
1年では2,420万円の売上ダウンです」
「2,420万円!そんなに売上が下がるんですか!?」
青ざめる加藤院長を励ますように話を続けた。
「いやいや、まだ話は続きますからね。それが利益にどう影響するのか、そして資金繰りにどう影響するのか、を導きだしてみましょう。
粗利率が80%なので、粗利ベースでは1,930万円のダウンになります。
その一方で、固定費も下がります。鈴木先生の年収が1,000万円なので、さらに教育費や諸経費をあわせると、彼の退職によって1,300万円の固定費ダウンになるでしょう。
つまり、彼が辞めることによる1年間の利益減少額は1,930万円-1,300万円=630万円ということです」
「ということは、1千万円借りておけば、1年半以上はドクターを新たに雇えなくてもお金はまわる、ということですね。それだったら、この1年半以内でドクターを採用して、戦力化すればいいということになりますか」
キャッシュフローコーチは続けた。
「そこまで覚悟しておけば万全ですが、現状で利益が年間900万円、返済後にも200万円のキャッシュフローがあります。なので、最悪630万円の利益減となっても利益ベースでの黒字は確保できますね。ただ、返済をした後のキャッシュフローベースではたしかにマイナスになりそうなので、いくらの資金不足になるかは税理士さんに試算してもらってください。おそらく概算で200万円程度の資金不足になるかと思います。
なので、当初に院長が不安がっていたほどのひどい状況にはならないと予想できますね。
ただ、幸いホワイト歯科は業績も財務体質もよいので、今ならかなり良い条件で融資を引き出せるはずです。なので、あえてタダ同然の金利で500万円から1,000万円程度を借りておいて、“借りたお金は運転資金のアテにしないで固定制の預金口座に入れて大切にとっておく”、というのがお勧めです」
「この状況なら、借入しなくてもよいかな、とも思いましたが、借入したほうがいいですか?」
「はい。万が一、勤務医の採用が遅れたり、想定以上に教育に時間がかかるなどで売上が下がった場合の保険としてお金を予め用意しておくのです。
実際に売上が下がって資金繰りが苦しくなってからだと、今借りるほどの良い金利では借りられないでしょうからね。それで、必要なくなれば、前倒しで返してしまうか、引き続き保険として手元に残しておいて、計画通りに少しずつ返していけばいいです」
「なるほど、それなら初めに思っていたほどのダメージはなさそうだし、安心しました。
ありがとうございます」
加藤院長は受話器を置くと、冷静さを取り戻し、具体的に勤務医を採用する作戦を考え始めた。
【今回のレッスン】
◎ 戦力となるドクターやスタッフが退職する際には、彼の退職によって、いくらの売上や利益が変化するかを試算する。
◎ それをカバーするためのシナリオを考える。今のメンバーで補うのか、新人を採用して育てるのか、それとも即戦力を雇うのか。いずれも、時間とお金の相談になる。時間軸を1年から3年と長くとってシミュレーションを繰り返す中で、最適な道が見えてくる。
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