ベテランスタッフから雇用条件の相談を持ちかけられたら?「院長、福利厚生のことで相談が・・・」
2021.11.15 執筆者:和仁 達也キャッシュフローコーチキャッシュフロー経営人件費歯科医院着眼点
歯科業界は人手不足の問題を抱えている医院も多く、
歯科衛生士の離職率は高いと言われています。
院長は新人よりもできるだけ即戦力となるベテランスタッフには
やめて欲しくないと思っているはずです。
そんな時に「院長!雇用条件で相談が…」とスタッフから言われると
ドキッとしますよね。
その時に院長はどのような視点で捉えていけばいいのでしょうか?
単なるスタッフの給与の不満と捉える院長が多いのですが、
ここの着眼点を変えることでこれからの院経営にとって
大きなプラスになるヒントになる場合もあります。
この記事では、
「ベテランスタッフから高揚条件の相談を持ちかけられた時」
の着眼点をお伝えします。
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ホワイト歯科で8年目になる衛生士の伊藤は、
意を決して院長室のドアをノックした。
加藤院長が中に招き入れると、伊藤は開口一番、伝えた。
「院長、福利厚生のことでご相談があるのですが」
加藤院長の脳裏を嫌な予感が駆け巡った。
半年前に衛生士長が夫の転勤のため退社した後任として、
伊藤はよく頑張ってくれていた。
さらについ先月、結婚したばかりで、公私ともに環境の変化が多いタイミング。
夫の稼ぎもそれなりにあるようだし、
加藤院長は常に心のどこかで「伊藤に辞められたら困る」
という思いを漠然と持ち続けていた。
翌日のキャッシュフローコーチの和仁とミーティングの議題は、
その対応についてだった。
「伊藤の申し出は3つでした。
①ウチの産休制度はどうなっているか?
②今後、家事や育児に伴い、時短勤務は可能かどうか?
③今の自分の給料は低いのではないか?
ということです。
その場ではゆっくり話せなかったので、週末に改めて面談しよう、
と本人には伝えています。
それまでに、わたしの考えを整理して、
どう対処すべきかを決めたいと思うんです」
キャッシュフローコーチは事情を把握すると、いくつかの質問を口にした。
「まずお尋ねしたいのは、2つです。
伊藤さんのその申し出を受けて、院長はどう感じているか、という点です。
そして、そもそも、なぜ伊藤さんからそのような話が持ちかけられたのでしょうか。
そのあたり、いかがですか?」
加藤院長は、心を落ち着かせながら、ゆっくりと答えた。
「正直に言うと、『医療人なのに給料や条件ばかり言ってくるなんて!』
というのと、『今はウチが人不足なので、言ったもん勝ちみたいな感じで、
足元を見られているんじゃないか?』という、苛立ちを感じています。
それで、伊藤がなぜその話を持ちかけたのか、というと、
彼女が言うには『新人の給料に比べて自分の給料が低く感じる』
とのことでした。
たぶん、スタッフ同士で給料の話になり、
夫にもそれを話した上でのことなんでしょうね。
一般企業から見れば、歯科医院の給料水準は決して高くはないので・・・」
キャッシュフローコーチはそこでさらに質問を加えた。
「伊藤さんはなぜ、新人と比べて自分が低いと感じたんでしょうか?」
加藤院長は痛いところを突かれた表情で続けた。
「実は元々ウチは給料水準が低くて、
3年前に全員を一律数万円、引き上げたんです。
その時はみんな喜んでくれたんですが、よく考えたら
入社したばかりのスタッフの基本給もアップしていることに
納得がいかなかったんでしょうね。
かと言って、自分の新人の頃からさかのぼって差額を支払え、
とまでは言えないし・・・と言う漠然とした不満があるような気がします。
あと、今もう一つ思いついたんですが、
昇給は毎年一律で1800円ずつ全員に行っているんですね。
これも、よく考えたら、入社1~3年目のスタッフは
1年での成長が大きいけど、10年目のスタッフは
1年でそれほど変化がない。
なのに、全員一律で同じ昇給額っていうのは、なんだかしっくりこないですよね〜」
キャッシュフローコーチはうなずきながら、にこやかに答えた。
「たしかにそうかも知れませんね。
ということは、伊藤さんの今回の申し出は、
単なる不満や理不尽な要求ではなく、
医院のシステムをちゃんと実態に沿ったものに
アップデートする機会を与えてくれたとも言えますね」
加藤院長は、苦笑いしながら賛同した。
「確かに!きっと伊藤は、医院の矛盾に気づいたので、
それをスッキリ納得したかったんでしょうね。
ついさっき、彼女に苛立ちを感じていたのが、なんだか恥ずかしくなりました」
キャッシュフローコーチは最後に、話を整理した。
「今回の伊藤さんの申し出は、給料のシステムを最適化することを含めて、
『産休の扱いをどうするか』とか、
『家庭の事情でフルタイム働かないスタッフへの対応をどうするか』
をきちんと設計するチャンスだと、わたしも思いました。
では、一つずつ、検討していきましょうか」
この数十分の対話によって、
加藤院長にとって、「スタッフからの不満の対処」という、
後ろ向きな問題という捉え方だったのが、
「スタッフがさらにやりがいを持って働けるシステムの改善」
という前向きな課題に転換した。
そこに希望を感じた加藤院長の表情は晴れやかだった。
【今回のレッスン】
◎スタッフからの待遇改善の申し出は、単なる不満や理不尽な要求とは限らない。
時として、医院のシステムをより実態に沿ったものに
アップデートする機会を与えてくれることもある。
◎「スタッフからの不満の対処」という、後ろ向きな問題なのか、
「スタッフがさらにやりがいを持って働けるシステムの改善」という
前向きな課題なのか。
その捉え方1つで、その後の舵取りは、まるっきり変わる。
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