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歯科医院の脱★ドンブリ経営 実践ストーリー

「スタッフに危機感を持たせるために、経営数字を公開する」は正解か?

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2022.06.15 執筆者:和仁 達也

危機感の無さに焦りを感じた社長が、
不安や怒りを起点に数字を公開しようと考えることがある。

しかし、その目的をきちんと整理しておかないと、
思わぬ落とし穴にハマる恐れがあるので注意したいところです。

そこでスタッフに情報公開する前に知っておきたいことを
歯科医院の事例ストーリーに乗せてお届けします。

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「院長先生、今年の忘年会はドーンと豪華に行きましょうよ!」

受付スタッフから発せられたその言葉が、
加藤院長の脳裏から離れなかった。

確かに今年はスタッフのみんな、頑張ってくれた。
長年勤めてくれていたドクターの独立や衛生士の出産などに伴う
人不足の中、お互いにサポートし合って、仕事をまわしてくれている
ことには、心から感謝している。

その頑張りに報いてあげたい気持ちは、院長として当然ある。

ただ、お金の収支はどうか。

スタッフの欠員を埋めるべく、求人募集はしているものの、
なかなか望んだ人材は現れない。

採用基準を妥協して採用すれば、人手は助かるが、
結局、既存スタッフとのレベルが合わず、かえって生産性が
落ちることは、過去に経験から学んだこと。

よって、歯を食いしばって、医院の基準に見合うスタッフが
現れるまでは、採用に踏み切らずにいた。
そうこうしているうちに、半年近くが経っていた。

その間、人手が足りなければ、受付はアポの人数を目減りさせる。

「待ち時間が伸びれば、クレームとなり、医院の評判が下がる」
からでもあるし、診療に携わるスタッフから
「アポを減らして欲しい」との無言の圧力を感じてもいるようだった。

そして、アポが減れば売上は当然ながら下がる。
「売上が10%減ったら、利益も10%減る」
と連想する人もいるが、事実は違う。

売上が10%下がることで、固定費が同じなら利益は
なんと80%も減ることもある。

実際には固定費も削減努力をするから、
そこまでのマイナスにはならないが、ホワイト歯科も
この半年は利益が目標対比で50%の状況だった。

「この状況をわかってもらうため、スタッフに決算情報を伝えて、
危機感を持ってもらうべきじゃないかと思うのですか、どうでしょうか?」

加藤院長は、定例ミーティングで
キャッシュフローコーチの和仁に相談を持ちかけた。

「忘年会をドーンと豪華にやれるほど、
今の医院に余裕はないってことを、
スタッフたちにもわかって欲しいんです」

一通り話を聞き、直近の数字に目を通すと、
キャッシュフローコーチは口を開いた。

「なるほど、院長の考えはわかりました。
ところで、勤務医と衛生士が減ったことで、
具体的にどのような数字の変化がありましたか?」

1日あたりの治療とメンテナンスの来院数が
それぞれ次のように変化していた。

<半年前>  <今>
●治療来院数     40人 ⇒ 38人(2人減)
●メンテナンス来院数 20人 ⇒ 16人(4人減)

数字を示しながら、院長は話を続けた。

「このうち、治療来院数の1日2人程度の減少分なら、
院長であるわたしが頑張ればなんとかなります。

わたしがスタッフたちに頑張って欲しいのは、
メンテナンスで来院している患者さんへの対応なんです。
メンテナンスはドクターではなく、衛生士の活躍次第なので。

もちろん、これまで4人でやっていたことを3人でやるわけだから、
大変なのには違いありませんが、人が足りない間は
相応の報酬を用意してでも、なんとかカバーしたいです」

院長の考えを聞くと、キャッシュフローコーチは確認をした。

「なるほど。つまり、院長の希望は
『どうすればスタッフが医院の置かれている
厳しい状況を理解して、”健康的な危機感”を持ち、
この難局に前向きに取り組んでもらえるか?』
ということですよね。

それが目的だとして、スタッフに医院の決算情報を
伝えることがベストだと思いますか?」

ホワイト歯科では、スタッフミーティングは毎月開いているものの、
医院のお金の流れの基礎教育は今までしてこなかった。

よって、その状況で決算情報を公開されたところで、
それを見てどう判断していいか、わからないだろう。

最悪の場合、医院の状況を過剰に不安視して、
「経営危機の医院だから、他に行った方がいいのでは」
と、先走った判断を招く恐れすらある。

しばらくの沈黙のあと、院長は重い口を開いた。

「”忘年会をドーンと豪華に”という
スタッフの危機感のない言葉に反応して、
つい安直に考えていました。

今、必要なことは、
スタッフが自分ごとで捉えられる情報を伝えることですね。

ならば、メンテナンス来院数の現状と目指す数字を共有して、
そこに集中した方がよさそうです」

キャッシュフローコーチはうなずきながら、言葉を足した。

「そうですね。つまり、スタッフたちが直接関われる領域の
目標と現状のギャップにフォーカスしてもらうことが大切ですね。

そして、
『なぜそれを達成する必要があるのか』
『それを達成すると、どんないいことがあるのか』
をきちんと伝えられるといいですね」

漠然とした不安の正体がわかり、
また具体的なアプローチがハッキリして、
院長の顔つきは晴れやかになっていた。

 

【今回のレッスン】

◎健康的な危機感を持ってもらう上で大切なことは、
スタッフが自分ごとで捉えられる情報を伝えること。
つまり、自分たちが直接関われる領域の目標と現状のギャップである。

◎そして、『なぜそれを達成する必要があるのか』
『それを達成すると、どんないいことがあるのか』
をきちんと伝えることが大切である。

「さらに理解を深めたい人はこちらの記事もオススメ」

▶︎スタッフに経営情報を公開する方法とは?その”経営数字の意味”を言語化しよう。

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  • 和仁 達也

    ビジョンとお金を両立させる専門家、ビジョナリーパートナー。1999年に27歳で独立、月1回訪問・月額30万円以上の顧問先を複数抱える。継続期間は平均10年で、20年以上の支援先も。この高額報酬で長期契約が続く【パートナー型】コンサルティングを学びたいコンサルタントや士業が養成塾や合宿に1,000人以上参加。2015年に日本キャッシュフローコーチ協会を設立。CFコーチの育成と普及に注力。著書に「年間報酬3000万円超えが10年続くコンサルタントの教科書」他多数。

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