プライドの高い後継者に院長の役割を自覚してもらうには?人から言われることを嫌う人への、伝え方の工夫。
2023.11.15 執筆者:和仁 達也キャッシュフローコーチキャッシュフロー経営着眼点
能力が高い人に謙虚さを取り戻してもらうことは
簡単ではありません。
後継者となる息子が能力とプライドが高い場合に、
謙虚さを取り戻して、経営者として成長してもらうには
どうすればよいか?
そのカギは、「何がわかっていて、何をわかっていないか」
に本人が向き合うきっかけを用意すること。
それを、歯科医院の事例でお届けします。
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加藤院長は3年後に自分の息子のサトシに医院を
継承するにあたり、悩んでいた。
歯科医師としてのセンスがよく腕はあるが、経営者として
スタッフの心をつかみ舵取りをするには、いくつかの課題があった。
それはプライドが高くて常に上から目線、スタッフを下に見る
ところがある点だった。院長としては近い将来に医院を継承するにあたり、
サトシのその課題に気づかせたいと思っていた。
ところが、経営の考え方やスタッフのマネジメントについて
教えようとしても、「知っている、わかっている」の一点ばり。
本人なりに本やセミナーで学んでいて、ドクター仲間からも
一目置かれているので、自信があるのだろう。
「何がわかっていて、何がわかっていないのか」を明確にして、
院長としての課題を自覚させてあげることが必要だと、
加藤院長は常々、感じていた。
この件について、キャッシュフローコーチの和仁に相談を持ちかけた。
「加藤院長が一番気にかかっているのはどんなことですか?」
加藤院長は少し考えて答えた。
「なんと言いましょうか、サトシは言葉遣いが偉そうな
感じがするんですよね。あと短気ですぐに怒りが顔に出るのも、
場の空気を悪くするし、スタッフや患者さんによくない影響を与えています」
キャッシュフローコーチはうなずきながら質問を続けた。
「彼がそのような振る舞いをする理由は何だと思いますか?」
「まぁ性格と言ってしまえばそれまでですが、
割と要領が良い方で頭の回転も速いので、周りが自分より
劣っているように見えてイライラしているのでしょうね。
端から見ていると、馬鹿にされているように感じる
スタッフもいると思います。ただ、ドクターで腕もあるし
院長の息子なので、スタッフは遠慮して何も言わないようにも見えます。
このままだと、その不満が蓄積してどこかで噴出するかもしれないし、
少なくとも彼に医院を引き継いだときにみんながついてきてくれるか、
とても不安なんです」
キャッシュフローコーチはホワイトボードにポイントを書き出した。
①要領が良くドクターとして腕がある
②頭の回転が速い
③周りが劣っているように見える
④短気で怒りが顔に出やすい
⑤言葉遣いが偉そうである
ポイントを列挙した上で質問した。
「これらのことを前提としたときに、
どのようにアプローチすると良さそうでしょうね?」
加藤院長ははっと思いついた表情で答えた。
「彼は、根は悪い奴じゃないんです。向上心も高いし、
あるレベルに達するまでは素直に学ぶ姿勢もあります。
ただ、自分がその中でトップに立つと、そのレベルにない人に
対して不満を持ち、その怒りが表情や言葉に出るようなんです。
いま彼は、自分が何でもわかっているような錯覚を
しているのかもしれませんね。
確かに1ドクターとしては
十分な力を発揮してくれています。
ただ、3年後に院長になることを考えれば、
足りないことだらけのはずなんです。
まあでも、当たり前ですが、経験していないので
“自分が何がわかっていて何がわからないか”がわからない。
そのことが、彼が謙虚な姿勢を損ねている理由のような気がします。」
キャッシュフローコーチは納得の表情で言葉を続けた。
「なるほど、そこは大きなポイントですね。
もともと向上心があり素直な方と言うことなので、
まずは自分の次期後継者としての立ち位置を正しく理解すること。
そして、『どの分野において、何を学び、身に付ける必要があるか』
を特定できれば、もともとある向上心をそこに振り向けることができ、
謙虚さを取り戻すことができそうですね。
加藤院長、ひとつ提案があります。
サトシさんに、次の質問を投げかけてみる、というのはいかがでしょうか?」
キャッシュフローコーチの狙いはこうだった。
今のサトシの状態からすると、それがたとえ現院長であれ、親であれ、
上からあれこれ言われたくない、というモードにある。ならば、
「何がわかっていて、何をわかっていないか」
に本人が向き合うきっかけを用意する
というものだ。そこで、院長とサトシは月に1度の個別面談を
行っているので、次回、この2つの質問を投げかけることを提案した。
① 「院長に必要な役割とスキルは何か?」について、2〜3のヒントを誘い水として伝え、本人に思いつく限り書き出させる。
(会計スキル、ビジョンを考える力、スタッフをまとめる力・・・etc)
② 「それらを習得するためにどんな準備をするか?」を考えさせる。
(通信講座を学ぶ、他医院の見学会やセミナーに行く、本を読む・・・etc)
「この時、①と②を分けてやるのがポイントです。
『何をやるか』と同時に『どうやるか』を考えると、
その時点で答えがわからない場合、一つ目の問いの答えが止まり、
フリーズしてしまうからです。
なので、まずは①の役割とスキルを(ある意味、無責任に)書き出し、
その後で、②の準備方法について1つ1つ方法論を考える。
そのアプローチで面談をすることをお勧めします」
加藤院長はうなずきながらメモを控えた。
あやうく、「院長はこうあるべきなんだ」と上から目線で
教えつけるところだった。冷静に考えれば、
サトシの性格をよく知る親として、こちらから答えを教えるより、
本人に答えさせてから話をするアプローチの方が
滑らかに会話が進むことが想像できる。
「つい、上から目線のモードになるのは親譲りだな」と、思わず苦笑いした。
【今回のレッスン】
◎自信があり人の教えを受ける姿勢がない人へのアプローチのコツは、
「何がわかっていて、何をわかっていないか」に
本人が向き合うきっかけを用意する。
◎そのポジションを担う際に、①必要な役割とスキルは何か?
そして、②その習得法はどうすればよいか?
その2つを順番に考えるよう促す。
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