優秀なスタッフが「家庭の事情」で退職するときの対応法。
2024.07.15 執筆者:和仁 達也キャッシュフローコーチキャッシュフロー経営着眼点
お店や医院において、優秀なスタッフが「夫の転勤」「親の介護」など
家庭の事情で退職を申し出てくるとき、それをそのまま受け入れる以外に
選択肢を提示できたら、お互いにとって良いですよね。
今回はそんな事例を歯科医院のケースで紹介します。
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ホワイト歯科には診療に関わるスタッフの他に、
受付スタッフが2人、そして経理や院長の秘書的な業務を
担当するスタッフ(佐藤)が1人いる。
佐藤は勤務歴2年、1日5時間・週4日勤務のパートスタッフで、
院長の考えをよく理解しており、ミーティングでも
院長とスタッフの橋渡し的な役割を担っていた。
実務面でも診療行為以外の、資料作成や患者対応、
マニュアル作成など、あらゆることを柔軟に対応してくれて、
院長もとても心強く感じていた。
そんな中、佐藤から「院長、相談があります」とのこと。
話を聞くと、夫の両親を介護する関係で、遠方に引っ越しするため、
退職したいとの話だった。
「理由が理由だけに、無理に引き留めるわけにもいかない」
と思い、後任のスタッフを急いで採用し、引継ぎを開始。
しかし、佐藤を高く評価していた院長としては、諦めきれない。
そこで今月のキャッシュフローコーチとの定例ミーティングは、
その議題を取り上げた。
キャッシュフローコーチの和仁は事情を聞くと、質問を投げかけた。
「佐藤さんの給料と、今までの主な業務や役割はどんな感じですか?」
佐藤は時給1500円で1日5時間の週4日勤務なので、
月給は12万円。
子育ての兼ね合いで正社員ではなく自らパート契約を望んでいた。
ただ、スタッフの気持ちを院長に伝えたり、
逆に院長の意図をスタッフに伝えるなど、
両者の“通訳”の役割を果たす貴重な存在。
院内のホウレンソウで使うグループチャット(ネット上の会議室)の
やりとりで違和感があると、さりげなくフォローを入れる、
抜群のバランス感覚の持ち主。
本来ならリーダーに据えてもいい程の、ポテンシャルのある逸材だった。
業務内容は、経理やマニュアル作成、患者さんに伝える営業ツール
に至るまで、多岐にわたる。
その中でも、加藤院長がもっとも佐藤に価値を感じていたのは
「院長とスタッフの架け橋役」だ。
一通り話を聞くと、キャッシュフローコーチは尋ねた。
「今まで時給は1500円とのことですが、
仮に勤務時間を半分以下にして、自宅勤務のスタイルで
働き続けてくれるとしたら、いくらまで払えますか?」
加藤院長はしばらく考えて答えた。
「時給2500円くらいまでなら払えます。その代わり、
これは実務をやってもらう時給ではなく、院長の相談相手や、
後任のスタッフの相談やアドバイスなどの役割の比重が高くなる想定です。
その場合、例えば1日3時間の週3日勤務とすると、月額9万円ですね」
「なるほど、
『今までの1.7倍の時間単価の給料をもらえて、
自宅で都合の良い時間帯にそのくらいの時間なら仕事に割ける』
ということなら、彼女にとっても悪い話じゃないですよね。
佐藤さんの場合、診療業務と違って、医院に通わなくても
やれる仕事もあるでしょうしね。
その案を持ちかけたら、どんな反応をするでしょうか?」
加藤院長は、腕組をして黙考したあと、答えた。
「う~ん、ただ、彼女は『やるなら全力でやりたい』という
完璧主義者で、例えばグループチャットのスタッフの会話を
見ていたら、黙っていられなくなってコメントしたり考え込んだりして、
予定以上に仕事に時間を費やしてしまうと思うんですよね。
わたしが一番、彼女に期待したいのは
『院長とスタッフの架け橋』役で、具体的には院長のわたしの
気がかりを “壁打ちの壁役”として聞いて意見をくれたり、
後任のスタッフが困ったときに相談に乗ってくれたり、という部分です。
それ以外にも、マニュアル作成や営業ツールの作成も引き続き
対応してもらえたら有難いのですが、そこは後任のスタッフも
ある程度はやれるので、佐藤には無理のないペースで空き時間に
進めてもらえれば良いと思っています」
「佐藤さんには、3段階くらいの選択肢を用意する必要があるかも」
と感じたキャッシュフローコーチは、院長に確認した。
「加藤院長が一番期待している『院長とスタッフの架け橋』の
役割は、他の人には代替困難でしょうから、佐藤さんを引き留めたい
気持ちもよくわかりました。
一方で、責任感が強くて『やるなら全力でやりたい』佐藤さんとしては、
ご主人の両親の介護が始まる中、仕事に没頭することが
家族に対して罪悪感を感じる恐れはありませんか?
あぁ、やはりありますか。
またもしかしたら、ご主人が『仕事を辞めて介護に専念してほしい』
と要求するかも知れませんね。
だとしたら、
仕事の負荷を大中小の3段階くらいに設定した提案をする、
というのはどうでしょうか?
つまり、想像できる範囲で最も長時間働いてもらうのがAプラン、
逆に必要最小限に絞り込んだ短時間のCプラン。
その間のBプラン、という感じです。
その場合、最小限のCプランは、どんな提案になるでしょうか?」
「その場合は、グループチャットには入らず、
週に1回、2~3時間だけ時間を確保してもらい、
わたしやスタッフとのオンライン面談にあてることでしょうね。
これまでの仕事の経験から、院内のことやスタッフの性格や
力量はよくわかっているので、グループチャットを見なくても、
面談時にその都度、状況を伝えれば大体はイメージできると思いますので。
それなら、過剰に仕事に時間を割き過ぎて家族の批判を受けることもないと思います。
今、話しながら改めて気がつきましたが、
わたしが彼女に一番期待しているのは『院長とスタッフの架け橋』の
ところのようです。そこを外さないことをCプランで抑えて、
彼女の状況や意向にあわせてBプラン、Aプランと業務を
負荷する道筋を相談すれば、彼女も安心して受けてくれるような気がします。
よし!彼女にやってほしいことと意図、そのボリューム、
報酬案について、ちゃんと紙に書いて、話をしてみます」
後日、その話を持ち掛けたところ、佐藤はそのプランを夫にも
見せて相談をし、了承を得られたとのこと。
プランCで、自宅勤務スタッフとして、引き続きホワイト歯科で働くことが決定した。
【今回のレッスン】
◎家庭の事情で退職する優秀なスタッフが、もし医院に通わなくてもやれる仕事があるのなら、
無理なく働き続けられるプランを考えてみよう。
◎せっかく、今後の医院の発展に役立つスキルや経験、長年のスタッフとの関係性という
知的資産があるのに、それが白紙になるのは大きな機会損失である。
◎その場合、実務に支払う報酬とは区別して、ふさわしい時間単価を検討したい。
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